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 Oct 12,2017

■黄昏のビギン

 「黄昏のビギン」は中村八大さんが1950年代後半に書いた曲で、後にちあきなおみさんのヴァージョンが有名になりました。

実に八大さんらしいメロディで、演奏の仕方によってはかなりオリエンタルな雰囲気もあります。坂本九さんの「上を向いて歩こう」が全米のチャートで一位になったのは有名ですが、もしもこの曲が「上を向いて歩こう」の次のシングルになっていたら、ベスト10には入っていたのではと思うほどの曲です。どちらの曲も5音階で進行するAメロ、色彩の変わるBメロとよく似ていますが、「黄昏のビギン」の方が転調が入るのでジャズっぽいかもしれません。

多くの人がカバーしていますので、その編曲も様々ですが、特に転調の入るB部分(「傘もささずに」からのセクション)から頭に戻る部分は編曲家の技の見せ場だと思われます。八大さんはジャズの人なので、このような転調の発想が浮かんできたと思われますが、当時の流行歌という範疇ではかなり思い切った展開で、同時代のジャズ系のソングライター、例えば平岡精二さんが歌手に提供した作品の中にも所々ジャズテイストの入るスマートな曲がありました。

簡単に説明すると、A部分のCメージャー調からB部分ではEマイナー調(Gメージャー調)へ転調し、もう一度Cメージャー調に戻るわけですが、その戻り方がちょっと強引といえば強引です。そして、このB部分の最後のコード進行によって、この部分の印象が相当変わるのです。B部分の最後の音はGで、これをGメージャー調のトニックと解釈し一度終止した感じにするか、Cメージャー調のドミナントと解釈し次に伏線を持たせるかでは、全然雰囲気が変わります。私は最後の小節でもうCメージャー調に戻っていて、ドミナントになっている方が自然な流れで好きです。この感じ、何かにあったと思い出すと、オサリバンの「アローン・アゲイン」の前半の転調にちょっと似ています。

 

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