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 Dec 11,2017

■サヨナラ考

 ェームス・ミッチェナーの小説を原作としたハリウッド映画「サヨナラ」(1957年)。ちなみに同じく日本でのロケシーンがたくさん出てくる「トコリの橋」(1954年)もミッチェナーの原作です。

「サヨナラ」には結婚を反対された日本人女性(ナンシー梅木)と米軍人が心中するというシーンが出てきます。最初に観た時には、アメリカ人は心中なんてしないだろと違和感を持ったのですが、今にして思えば、これは近松の引用ですよね。

もう水戸黄門の印籠シーンぐらい予定調和で、手を変え品を変え出てくるのが近松の中の心中。これは不幸や不調和に対し、一発大逆転の心中という技術で全く他の次元の幸福に転換してしまうという実に日本的な精神です。追い詰められて、もう帰る場所も頼る人もなくなった男女が、ウルトラマンのスペシウム光線やポパイのほうれん草のように終盤、突如繰り出す究極の切り札、それが心中です。ちなみに溝口健二監督の「近松物語」(1954年)のラストでおさん(香川京子)が処刑の前に一緒に逃げた男と馬に乗せられ、何とも言えない至福の表情を浮かべるのはこのメカニズムを知っているからですが、ミッチェナーは日本を描くにあたり、日本的な精神の際立ったものとして近松を選んだのだと思います。

 

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