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 Dec 23,2017

■今年の一本〜「横道世之介」

 年、観た映画の中で最も印象に残ったのは「横道世之介」(2013年)でした。

何気なくネット配信で観たら、引き込まれてしまい、シナリオまで入手して、その後沖田修一監督の作品に注目するようになりました。沖田監督のスタンスは基本コメディで、決して深刻ではないのですが、見終わった後に何ともいえぬ感情が残るというもの。この奇妙な感じは何かあったと思い出したら、川島雄三監督の「幕末太陽傳」(1957年)でした。もしかすると沖田監督は日本映画の古典的な名作を相当観ている人なのかもしれません。例えば「横道世之介」にも牧場で世之介と友達がダンスを踊るというシーンがありますが、これはそのまま「カルメン故郷に帰る」(1951年)ですし。ちなみに沖田監督の近作のタイトルは「モヒカン故郷に帰る」(2016年)です。

さて、「横道世之介」、気は利かないが憎めない世之介の大学生活を軸に物語が進みます。身に覚えのあるような世之介の行動に思わず自分の学生時代を重ね合わせ苦笑してしまうシーンもありますが、ハイライトはやはり後半の祥子とのエピソード。印象に残るクリスマスやバスを見送るシーン。世之介が祥子の家に招かれる場面で、祥子がカーテンに入ってしまうシーンなどは大爆笑ですが、十数年後の同じ部屋で祥子が目にするもの、そして、続くタクシーの中での祥子の表情。普通の泣かせたい映画ならこのタクシーのシーンをラストに持ってくるところですが、沖田監督はそうしないのです。このドライさというか、わざとらしからぬ感じが余計にぐっとくるのです。

一言で言えば、コメディという分かりやすい外殻の割れ目からほのかな光のように垣間見える人間の美しさが心に沁みるのです。キャスティングではコミカルかつシリアスという起伏に富んだ祥子役の吉高由里子さんの好演が印象的でした。私的には、2000年代の日本映画の中で「百円の恋」(2014年)と同じく忘れられない作品になりました。近年の日本映画、全然だめじゃないです。あー、安藤サクラさんが主演のコメディ映画が観たい!死神もいいんだけど(笑)

 

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