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 Jun 17,2018

■アナログマスターの時代

 1980年代前半、レコーディングはまだテープ媒体が主流でした。24トラックのマルチは2インチ幅のテープを使用し、それをミックスダウンする先がいわゆる2ミックスと呼ばれるマスターテープでした。

マスターテープは1/4インチか1/2インチ幅のテープで、それを38cm/sか76cm/sで回すのが一般的でした。通常、音の良さはテープの記録される面積に比例し、広ければ、広いほど良いとされます。つまり細い幅のテープを遅い速度で回すより、太い幅テープを早い速度で回す方が音が良いというわけです。ところが、ここで面白い現象が起こります。法則としては同じ1/4インチなら38cm/sより76cm/sで回すほうが音が良くなるわけですが、エンジニアにはなぜか38cm/sの音の方を好む人が少なくないのです。一度、エンジニアの方にその理由を聞いたような気がしますが、確か低域の入りが38cm/sの方が良いという答えだったと思います。

デジタルの時代になってからもマスターだけはテープのアナログでやるという方法も浸透しましたが、それほど最終期のアナログマスターは完成されたサウンドでした。テープの圧縮感によるまとまり、立体感などデジタルがノイズと共に失ったものは大きかったのです。おそらく、アナログマスターが出来る環境もハード面の維持やメディアの存続の問題で今後はゆるやかに消えてゆき、失われた技術となる運命でしょう。アシスタントの若者が一生懸命レコーダーのヘッドを拭いていた光景も、ディレクターが大きなマルチテープを持ってスタジオ入りしたのも今では見ることのなくなった懐かしい記憶です。

 

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