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 Jul 9,2018

■ジョン・バリーの歌もの

 ジョン・バリーはイギリスの作曲家。1960年代の007の映画音楽の仕事が有名な人です。元々、オーケストラのスコアを書くような人なので、こういう人が歌ものを書くと、通常のソングライターとは一線を画す大変面白い曲になります。

例えばシャリー・バッシーの歌による「ゴールド・フィンガー」(1964年)。イントロを聴いただけで、普通には行かないぜというトリッキーさの片鱗が見えますが、この曲を最初に聴いて思うのは調感が大変にあいまいなことです。Aセクションはトニック・コードから始まり、かろうじて最後にドミナント・コードへ戻っていますが、このドミナントが直前のディミニッシュ・コードによってドミナントに聴こえずに、変な響きに聴こえてとまどいます。もちろん、これは007の持つスリリングで不穏な雰囲気を表現したものと思われ、さすがというほかありません。

さらにトリッキーなのが展開するBセクション。繰り返しのA'セクションの最後がマイナーで終わっているためにようやく落ち着くのかと思うと、転調です。1度上への転調と思われますが、はっきりとした調感があるのは4小節までで、最後の小節で技が入ります。私の見立てではこのBセクションの最後の小節のメロがBセクションのキーのコードのディミニッシュ・コードの構成音になっていて、それをAセクションに戻るためのドミナント・コードに置き換えると、ドミナント・セブンス・フラット・ナインスのコードになるって文章にすると何言ってるのか分からない(笑)。

つまり、想像するとこうです。バリーは素直に戻りたくなかったと。そこで、この曲の雰囲気を決定しているディミニッシュをダメ押しにもう一回使ったのだと思います。普通に行きたいところなどに行くものか的な。このあたり、オレラはポップスの作家じゃねーからという矜持のようなものが垣間見えます。イギリスの映画音楽系作曲家はバリー・グレイなど逸材多く、分析するとこんなふうな難度の高いことを平気でやってます。

 

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