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 Jul 15,2018

■ヨーロッパ退屈日記

 大江健三郎を読んでいて、あまりに伊丹十三らしき人物が登場するので入手した伊丹さんのエッセイ集「ヨーロッパ退屈日記」を読了。1965年に初版の出た本ですが、今の視点で読んでもなかなか興味深いです。1980年代からバブルあたりにかけてレストランは○○で、車は××でというマニュアル本のようなものがたくさん出ましたが、それらが持っていた軽佻浮薄さをこのエッセイに感じないのは、やはりその情報そのものよりも伊丹十三という人物に興味があって読んでいたせいでしょうか。

1960年代、実際にイギリスやフランスなどに滞在して感応した様々なエスプリは、後の加藤和彦さんに通じるものを感じます。加藤さんと同じく料理に関しての記述も多く、もしかするとスパゲティのアルデンテという言葉を日本に持ち込んだのは伊丹さんではないかという気もします。1960年代の日本といえば、まだまだ様々な面で欧米諸国の後塵を拝しており、これは別の本で読んだ挿話ですが、あの飯倉の有名イタリアンレストランで初めて出したバジリコでさえ、本物のバジルは入手困難で、パセリとシソで代用していたらしいです。当時の東京の最先端の場所でこういう有様だったのですから、まだ何もかもが途上だったのでしょう(そう言われてみれば、私が子供の頃には小さいトマトなんて見かけなかったし、スパゲッティといえばオーマイでナポリタンとミートソースだけ、ピザといっても現在のピザとはだいぶ違い、チーズの塩気が強く、あまり伸びなかったような気もします)。

ところで、話は戻り、大江健三郎が1960年代に発表した複数の小説に登場する様々な物や人物や場所ですが、「象牙色で赤いシートのジャガー」も「アリフレックス16mm」も「純銀のダンヒル」もやはり伊丹さんの所有物でしたし、「バレー経験のあるゲイのイギリス人の友人」や「ウシェット劇場」もこのエッセイに登場します。主人公の人物設定についても、「父親が有名人」、「俳優の経験があり」、「ギターでレゲンダを弾く」、「資産家の娘と結婚」など、伊丹さんそのもの。ここまで符合すると、他の登場人物もモデルがいたのではないかと調べたくなります。

 

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