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 Aug 13,2018

■グッド・タイム・ミュージック

 斉藤哲夫さんは1970年代にデビューしたシンガー・ソングライター。この人の音楽の振幅はちょっとびっくりしてしまうほど広いです。大きく分けて2つ。いわゆるエレック・レコードのような硬派のフォークと、マッカートニーやオサリヴァンのような鍵盤楽器でないと作りづらいポップスというほとんど接点のなさそうな二面性です。この後者のカテゴリーで1974年にリリースされた「グッド・タイム・ミュージック」という曲があります。

この曲、カラオケなどでなかなか歌えるような曲ではありません。なにしろ音域が広いし、高い。最高音はCで、男性ヴォーカルではまず使わない音域です(ちなみに山下達郎さんの「ラブ・スペース」の「尾を引いて〜走り去ろお〜」の最後のすごく高く聴こえる音でさえBです)。逆の見方をすれば音域度外視で作られているからこそ、作者の意図が明確に現れていると思います。この曲を聴いて私が思い出すのはチューリップの「魔法の黄色い靴」ですが、チューリップの方が2年早いリリースです。頭の進行や、転調など、同じマッカートニー指向が感じられる曲ですが、「グッド・タイム〜」の方が自由に作っている感じがします。また、全体の印象ですが「魔法の〜」が徹底的に明るくポップなのに対し、「グッド・タイム〜」はなんとも湿った悲しげな印象を残します。瀬尾一三さんのアレンジもチェロの動きなどジョージ・マーティンぽく、何がやりたいのかが明確に分かります。

いずれにしても、この一曲で斉藤哲夫というソングライターが抱えきれないほどの才能の持ち主であることは明白です。1970年代前半期の日本の曲で、テクニカルかつチャレンジャーなポップスというカテゴリーがあれば、間違いなく五指に入る佳曲だと思います。

 

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