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 Jan 4,2019

■「雨月物語」の音楽

 年末から年始にかけて、溝口健二監督の作品を見直していて、色々と気が付いたことがあったので忘れないうちに書いておきます。

まずは以前も触れた「雨月物語」の音楽について。手がけたのはこの時代の傑作映画になくてはならない存在の早坂文雄です。まず霧の湖に船を出すシーン。ここで流れるのが重い太鼓が遠くでかすかに鳴っているような音楽。確か「近松物語」でも同様の手法があったと思いますが、墨絵のような映像にぴたりとはまり、不安感を湧き立てます。

さらに村の女が攻め込んできた兵士にお堂のような場所で犯されるシーン。ここで流れるのが能の謡曲のような音楽。映像と音楽を対比させる手法だと思いますが、ここでも終始、太鼓のような音がゆっくりとしたリズムボックスのように鳴っています。

京マチ子の家のシーンにはお鈴のような不吉な音(つまりこの家が現世のものではないということを表す伏線なのでしょう)、そして、京マチ子が踊りを踊り、それを喜ぶ亡き父親の霊が謡曲のような歌を歌いだすというシーンではテープの回転をコントロールして不気味な声を作っていると思われます。前にも書きましたが、森雅之が体にお経を書いているのがばれるシーンでは鐘のような音の逆再生が使われており、テープレコーダーを駆使して新しい音を作ろうとしていた様子がうかがえます。ちなみに1960年代のビートルズがテープ逆回転の先駆者と言われていますが、映画音楽の世界ではその10年以上前にやっていたということになります。

早坂文雄の仕事といえば、黒澤明監督の「羅生門」のボレロ、「七人の侍」の力強い音楽が印象的ですが、黒澤作品ではより洋楽的で主張の強い音楽なのに対し、溝口作品ではまるで空気のように映像に溶け込む引き算の音楽なのが印象に残ります。

また、同時代の映画音楽の伊福部昭はどんな映画を手掛けてもすぐに伊福部さんだとわかりますが、早坂さんは映画によって作風が全く変わるのでわからないことのほうが多いです。

 

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