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 Jan 14,2019

■雪村いづみ「スーパー・ジェネレイション」

 1994年に雪村いづみさんの曲を書くという機会がありました(過去テキスト)。その際、雪村さんの経歴はレコード会社からもらったプロフィールなどで知りましたが、当時はyoutubeなどという便利なツールは存在せず、実際の音源や映像などは見ることができませんでした。

近年、1950年代の日本映画を観ていると、雪村さんの出演された映画に頻繁に遭遇するのです。例えば、山口淑子さんの女優引退記念映画である「東京の休日」(1958年)。この映画は山口さんの引退の花道を飾ろうと、三船敏郎さん、原節子さん、上原謙さん、新珠三千代さん、池辺良さん、香川京子さん、加東大介さん、淡路恵子さん、八千草薫さん、司葉子さんなどという日本映画に欠かすことのできないスターが一同に会しているゴージャスな作品でした。そこに雪村さんも出演されていて歌うシーンがあった(短いチャイナドレスで「支那の夜」ともう1曲歌われたように思う)というわけで、日本映画の絶頂期に雪村さんが映画の世界でも相当のスターであったことを実感したのでした。

前置きが長くなりましたが、その雪村さんが1974年にリリースしたのが「スーパー・ジェネレイション」。このアルバムは雪村さんが、服部良一さんの曲を、キャラメル・ママ(林立夫・細野晴臣・鈴木茂・松任谷正隆)と服部克久さんのアレンジで歌うという企画です。つまり、1940年代から1970年代に至る4つのディケイドを音楽という共通言語でつなげるという実に斬新なコンセプトでした(クレジットを見ると、あの時代のユーミンを世に出したスタッフが深く関わっており、実にアルファ・ミュージック的な、アルファでしかできなかった企画だったと思います)。

戦前のジャズからも影響を受けた服部良一さんの曲、リズム・アレンジはキャラメル・ママで弦とホーンが服部克久さん、そこに雪村さんの歌というわけです。思えば三人娘(美空ひばり、江利チエミ・雪村いづみ)の中で一番ジャズや洋楽の香りがするのが雪村さんではなかったでしょうか。そして服部・雪村・キャラメル・ママという3世代の共通項といえば「東京」というキーワードだと思います。キャラメル・ママのポリリズムのような頭拍がどこか混乱する「銀座カンカン娘」でもなんなく自分のものにして歌い上げるヴォーカルはキャリアが成せる技だと思いますし、「東京ブギウギ」の最後に出てくる英語詞の部分などここだけ聴くととても日本人が歌っているとは思えません。中でも一番素晴らしいと思ったのは「胸の振子」。これは曲も歌もアレンジも完璧ではないでしょうか。宮崎アニメの最後のクレジットロールで使ってもよさそうな感じで、機会があればぜひ聴いてみてください。


 

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