■TEXT

 Feb 7,2018

■永井荷風の世界

 谷崎潤一郎を初めて評価したのが荷風ということで、興味を持ち読み始めました。荷風といえば、浅草あたりの劇場の楽屋でダンサーたちとの写真がたくさん残っているのが印象的ですが、多かれ少なかれ、文士という人種は一般人の持つ価値観とは異なる世界に生きているわけで。

さて、この濹東綺譚。小説家と娼婦お雪の出会いと別れの物語ですが、文中にこの主人公の書く小説が登場するという面白い構成。確か谷崎だったと思いますが、小説の中にいきなり谷崎自身の読者にあてた注釈のようなものが出てきた時も面白いなぁと思いましたが、こういうのはフランス文学あたりにモデルがあるようなことを読んだことがあります。そういえば、黒澤明監督の「素晴らしき日曜日」という映画で、後半にいきなり劇中の人物がカメラに向かって映画の視聴者に語りかけるというシーンがありましたが、それと同じような斬新な構成です。

荷風は若いころに官吏の父親のはからいで洋行を経験するという毛並みに良さにもかかわらず、逆へ逆へと行くしかできないところに彼の本質が見え隠れしています。つまり、親や家への反発を含みつつも、どうしても世間のまっとうな生き方とは相容れないものがあると。それはおそらくきれいな白い壁の一点の染みを見つけて失望するよりも、芥の中にある美しい花に惹かれるといったような部分で、それを生涯、リアルで実行しちゃったのですね。三島由紀夫は色々と世間を騒がすようなことをやりましたが、一方では家庭や家族というものは固く守っていたのに対し、荷風は裏も表もなく、好き放題やってひとりで死んでいったという人。フリーダム選手権でもあれば、文士の中ではトップクラスでしょう。


 

■■■■■■■■ kishi masayuki on the web


<<   TEXT MENU   >>

HOME