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 Jun 2,2019

■晩春

 「お父さんはもう56だ。お父さんの人生はもう終わりに近い」

これは小津安二郎監督の「晩春」(1949年)の中でのセリフ。原節子さんのお父さんを演じるのは小津作品では欠かせない笠智衆さん。杖をついていて、いかにも老人という体。その笠さんが原さんとの会話の中でこう言うのです。

このシーンが出てくるまで75歳ぐらいだと思って見ていたお父さんが56歳で、昔の56はこんなにおじいちゃんだったの?と驚いたのです。調べてみると1949年の日本で男性の平均寿命はなんと56歳(おそらく大戦や戦後の食糧事情などが関係しているのでしょう)。この映画のセリフは誇張ではなく、当時としては普通の感覚であったわけです。

話は変わり、1990年、ポール・マッカートニーの日本公演がありました。当時、マッカートニーは50歳の手前。1970年代に何度か中止になった挙句、ようやく実現した日本公演でしたし、もしかするとこれが生でマッカートニーを観られる最後の機会になるかもしれないと、アリーナ席を手に入れました。

何かの音楽雑誌に文章を依頼された時も、「今後、ポールを観られる機会は間違いなく減るだろう」などと書きました。ところが、それからほぼ毎年のように公演はあり、なんと70歳をとうに越えた今でも頻繁に日本公演があるという有様。ベンチャーズかよ!と突っ込みたくもなりますが、とにかくファンの間でも、また来るの?と言われるぐらい多くの日本公演が行われているのでした。

1949年の日本で56歳はすでに老境であったのに対して、2019年の現在、76歳でもまだロックスターとしてツアーをしている人がいる。加山雄三さんも現在82歳でツアーをされている。何が言いたいのかといえば、70年の間に年齢の感覚もこれほど変わったということです。


 

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