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 Jun 5,2019

■遥かなる影〜その1
 
 「遥かなる影」はバート・バカラック/ハル・デイヴィッドの曲で、カーペンターズのヴァージョンが大ヒットしてスタンダードとなりました。

オリジナル・タイトルは'(They long to be)Close to you'。直訳すれば「彼らはあなたのそばにいることを願っている」。詞の内容は、モテ男がいて、このモテ男といるとこんなに不思議なことが起こります。その理由は云々・・・という女性視点の歌詞。タイトルの「彼ら」は鳥だったり、星だったり、最後に女性になったりします。前々からひっかかっていたのは、天使がこの男をモテ男にすることを決めた部分。ムーンダストを髪や瞳にちりばめてというあたり、どう考えても対象は女性ですよね。

調べてみると、やはりこの曲、最初は男性シンガーに書かれた歌でした(つまりモテ女の歌)。1963年にリチャード・チェンバレンという俳優さんが歌ったのが最初だったそうです。つまり、元は男性から女性への詞で、カーペンターズで'girls'となっている歌詞は元々'boys'だったというわけです(1964年のディオンヌ・ワーウィックのカバーから変更された模様)。

洋楽では歌う人の性別によって歌詞の一部を変更するというケースがよくあり、初期ビートルズもガールグループの曲のカバーをやる際、'he'を'she'にしたように人称代名詞を変更していました。日本ではこのあたり変えないケースの方が多いようです。例えば中村八大さん作曲の「黄昏のビギン」は元々は男性シンガーに書かれた詞ですが、女性シンガーが歌っても「僕たち」という歌詞はそのままでした。

この和洋の考え方の違い、どうしてだろうと推考すると、人称代名詞の性別だけを変えても詞全体が逆の性別に向けた詞にはならないから?、あるいは一度世に出た歌はそこで完結していて、シンガーの性別によって左右されず、つまりシンガーは完成された歌の語り部であるという考え?など色々と思いつきますが、いずれにしても日本では一度世に出たものの修正を嫌う傾向があることは確かなようです。そういえば、紅白に出演した歌手が持ち歌に勝手に新しい歌詞をつけた導入部付きで歌ったら、作詞家が激おこしたという話もありましたっけ。

(その2に続く)

 

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