■TEXT

 Nov 15,2019

■ロカブームの仕掛け

 日本で一瞬だけ盛り上がり、瞬く間に収束した1958年あたりのロカビリー・ブーム。先日、その話題の出てくる本を読んでいたら、あのブームは自然発生ではなく、ちゃんと仕掛けがあったとのこと。

舞台を盛り上げるために、熱狂する女の子たちが雇われていたというのですよ。そのような目で当時のフィルムを見ていると、なるほどやはりちょっとおかしいのです。例えば、ファンの女の子が舞台に上がってきて歌手に抱きついたり、前席から足を引っ張ったりするのですが、バンドのメンバーはすぐにはそれを制止せず、一通りやらせてから止めに入っているように見えます。抱きついた女の子は一瞬抱きつくだけで、そのあとは仕事は終わりましたのごとく、おとなしく客席に帰ってゆきます(本当のファンなら誰かに制止されるまで、ずっと歌手の抱きついていたいのではと思うのです)。そして、そのような熱狂的な行動をするのは舞台の前面の10人ぐらいの女の子で、周りの観客はそれをおとなしく見ているという感じ。

同じ時代のエルヴィスのライブでも、舞台に女の子が上がってくるというシーンはあるのですが、突進して抱きつくのではなく、ファンがエルヴィスのそばに行っただけで感極まって泣いちゃうのですよ。これがリアルなリアクションのような気がします。

考えてみれば、いかに戦後の自由な雰囲気とはいえ、実際にステージの歌手に突進して抱きつくほど奔放な女性がいたかどうか。そして、前年に有名歌手がステージで塩酸をかけられるという悲惨な事件があったにもかかわらず、こんなにステージ上の警備がガバガバなはずがないとも思え。それもショービズの世界の演出だったと言われれば、虚実の境を行き来する芸事の世界は今も昔も案外変わっていないような気もします。


 

■■■■■■■■ kishi masayuki on the web


<<   TEXT MENU   >>

HOME