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 Dec 11,2019

■怪獣映画のキャスト

 1960年代半ば、映画業界がいよいよ不況になってくると、映画会社各社は子供を中心にブームとなり、動員の見込める怪獣映画に参入し始めるのでした。

大人になってからこれらの作品ももう一度観直すと、驚くのはそのキャスティングです。例えば「モスラ」(1961年)。黒澤映画常連の香川京子さんや志村喬さん、川島雄三監督作品で光るフランキー堺さんや、松竹で一世を風靡した上原謙さんというすごい布陣。一番驚いたのは初期の黒澤映画で存在感のある千石規子さんが「怪獣大戦争」(1965年)で下宿のおばさん役で出ていたことです。ここで芸達者な千石さんを起用するからには、このおばさんが実は宇宙人だったなどという展開なのかと思ったら、特にそういうこともなく、出番も少ないただのおばさんだったことに驚いたのでした。また、セイウチのような怪獣が一瞬出てくる「妖星ゴラス」(1962年)には池部良さん。池部さんはこの2年後に「乾いた花」で硬派なアウトローを演じるのですから、芸風の幅の広さにも驚きます。逆の見方をすれば、これだけのスターを怪獣映画に投入したのですから、いかに東宝がこのジャンルを重要視していたかがうかがえるのです。

怪獣映画に先鞭をつけたのは東宝ですが、これを参考に大映、松竹、日活といった会社も続々と怪獣映画を製作します。大映はドル箱となりシリーズ化した「ガメラ」(1965年)、そして「大魔神」(1966年)。「大魔神」は時代劇仕立てで大人が観ても十分楽しめる丁寧な作りです。そして、現在ではあまり触れられることなくマニアックな存在の松竹「宇宙大怪獣ギララ」(1967年)。日活は唯一の怪獣もの「大巨獣ガッパ」(1967年)。ガッパには日活の青春ものでおなじみの川地民夫さんや和田浩治さん、藤竜也さんが出演しています。前述のように東宝では「七人の侍」や、溝口、小津、成瀬監督作品に出ていたようなエース級の人が何人も怪獣映画に出演したのですから、大映の勝新太郎さんや市川雷蔵さんが仮に「大魔神」にキャスティングされたり、日活の石原裕次郎さんや浅丘ルリ子さんが仮に「ガッパ」にキャスティングされていてもおかしくはなかったということになります。「座頭市」と「大魔神」なんて案外マッチしたかも。

 

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