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 Feb 7,2020

■フェンダーのハムバッカー

 ギターの世界でも意欲作であったのに、市場にあまり受け入れられず、一部の熱狂的なユーザーにしか支持されなかったものは少なくありません。例えば、マーティンのエレキギター、ギブソンのベース、フェンダーのホローボディやアコギなどはその部類でしょうか。

そのような流れの中で、本来のフェンダーのカラーからややはずれながらも例外的に受け入れたのがフェンダーのテレキャスター・シンラインというギターでした。1970年代に登場したこのギターはシングルコイル・ピックアップが標準だったフェンダー・ギターにセス・ラバーが開発したワイドレンジ・ハムバッカーを載せた意欲作で、当時は海外でも国内でも愛用者は少なくありませんでした。

シンラインはめずらしくフロント・ピックアップがリアより使えるギターという印象で、多くのギブソンのフロントのように固まりにならず分離が良かったのです。なので、フロント固定のクリーンで使える実にフェンダーらしいギターでした。

で、最近知ったのですが、このオリジナルのフェンダーのハムバッカーはかなり特殊なマグネットの材質と構造だったとのこと。通常、ピックアップによく使われるマグネットはアルニコで、アルミ、ニッケル、コバルトの合金ですが、これはクニフェというカッパー、ニッケル、アイアンの合金だったのだそう。しかも、オリジナルはシングルコイル同様にポールピースがマグネットになっていたのだとか。ところが、このクニフェ合金が入手困難になり、フェンダーのリイシューモデルのハムバッカーでは外観こそ同じですが、中身はアルニコやセラミックが使われるようになりました。当然、1970年代のオリジナルのハムバッカーとはサウンドは異なり、どちらかといえばギブソンのハムバッカーのようになったのです。つまり、現行のシンラインは1970年代のオリジナルとは別物だと言っていいかもしれません。

このフェンダーのハムバッカーの変化は独立系のピックアップ・メーカーも気づいていて、ローラーやリンディなどがアルニコを使ってリプレイスメントものを出していましたが、先ごろ、本家のフェンダーがオリジナルのクニフェ仕様でこのハムバッカーを再生産したようです。エレキギターは、原始的な構造とはいえ一応電気ものなのですから、この半世紀の間にもっと進化したり、革新的なものが出てきても不思議ではないのに、そのようなものは出てきてもやはり消えてゆき、昔のスペックが珍重される傾向にあります。だいたい、今でも本気で真空管が使われているのは、ギターアンプの世界と一部のハイエンドのオーディオぐらいでしょう。これはノイマンのマイクロフォンのように、ギターも50年前にすでに完成形として認知され、それ以上の進化は求められていないということなのでしょうか。

 

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