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 May 20,2020

■ノサカの文学

 野坂昭如を初めて読んだのはもうずいぶん前のこと。三島のことが書いてある「赫奕たる逆光」が最初。余白のない、やや読みづらい樋口一葉的文体に閉口しましたが、慣れるとそれも気にならなくなりました。代表作は「火垂るの墓」ということになっていますが、私はどうもあの手の話が苦手で長年敬遠していたような気がしますが、最近、書庫の奥の方を見ると「火垂るの墓」や「アメリカひじき」も持っていて、読み返しました。

それからなにか気になって色々と読み始めると、次が読みたくなる。基本は色、食、死の3つのテーマが繰り返し出てきて、色事の出てこない「火垂るの墓」のほうが異色なのでした。世の中の裏に横たわる様々な禁忌や人間の暗部をあえて取り上げる印象、その掘り下げ方はなにか執念を感じるほど執拗。

基本、色事などを触媒にしてあぶりでてくる人間の業に打ちのめされるのですが、やはり、あまりにどぎつい設定、結末にはカタルシス感じず、気分が下がる作品も。思えばアニメの「火垂るの墓」は原作の生々しい部分を避けて描写しているためにテーマがかなり異なる印象と感じました。テーマは決して文部省が推薦するようなものではないと思われ。戦争反対のメッセージや兄と妹のヒューマンな物語と受けとるのは受け手の自由ですが、原作を読んで残るのは人間がいかに鬼になり、獣になるかという点。

古書でも野坂本はなぜか高価。あまり知られていない作品などは定価の数倍もめずらしくなく、それだけがネックです。

 

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