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 Aug 12,2020

■盛夏の読書

 読みかけの本を持ってカフェに行きたいところですが、この夏はなんともそういう気分になりません。

今、読んでいるのは今日出海。今東光が谷崎潤一郎の秘書のようなことをやっていたことがあると知り、東光に興味を持って全集の端本を手に入れると弟の日出海とセットになっていて、読み始めると興味深かったのです。

「山中放浪」は日出海が陸軍の報道班員としてフィリピンに送られた時の話。折しもアメリカがフィリピンを奪還しに来る直前で、航空機も武器も食料もすでにほとんどない日本軍と数カ月敗走するという実話。被弾して偶然に着陸した日本の偵察機に拾われ、万に一つの幸運でフィリピンを脱出し台湾に着きます。

当時の台湾はほぼ平時で、前線の将兵があれほど悲惨に敗走しているにもかかわらず自分を優先的に飛行機の乗せてくれたのに比べ、台湾にいる士官は威張り散らしている上に芸者を落籍させるなど、その体たらくぶりに怒り、大げんかをするのです。まるで大映映画「兵隊やくざ」のリアル版(笑)ですが、このあたりがさすがに今東光の血を分けた人という感じ。普通の文士ならここで御託を並べて何もしないというのが常ですが、この人はやられたらやり返すのです。まあ、軟弱な文士のふりをして相手にけんかを吹っ掛けさせ、ぼこぼこにしちゃう東光ほどのけんか好きではない様子ですが、血は争えません。この人が後の初代文化庁長官になるのですから日本も捨てたものではありません。

 

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