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 Nov 8,2020

■船山基紀さんの仕事

 12月に編曲家の船山基紀さんの代表的な仕事をまとめた4枚組コンピレーションCD(全72曲)が出るとのことです。

私が作家として活動してから、初めてのヒット賞を貰った「青い風のビーチサイド」(松本典子 1985年)は船山さんの編曲でした(コーラスアレンジは船山さんの承諾を得て私がやりました)。

船山さんとの仕事で忘れられない曲はたくさんあるのですが、1990年代にパイオニアLDCで小林登美子というモータウンやフィリー系のシンガーに書いた時のエピソード。その頃の私はディレクターが分かりやすいように、多くのシンセモジュールを使い、作りこんだデモを作っていました。この時はモータウンやフィリーだったので、ブラスや弦もアイデアのひとつとしてデモに入れて置いたのです。

曲がシングルとして採用になり、アレンジは船山さんでした。数週間後、カンパケを聴くと、デモのベース・パターン、キーボードのオブリ、ブラスのフレーズをベーシックに生かしつつも、10割増しぐらいのカッコいいアレンジが施されていて舌を巻きました。これは贅沢ですよ。なぜかといえば、自分のアレンジを船山さんにここはこうしたほうが良いと添削されているようなものですので。なるほど、ブラスや弦はこう行くとまとまるのかとか、ここは抜いたほうがいいのかとか、自分の解釈で一回アレンジした曲ですから、アレンジ上、どこがOKでどこがNGだったかがテストの採点のように分かったのです。ちなみに私の考えたイントロはばっさりと切られ、その数十倍もキャッチーなイントロになっていて、さすがだとうなった覚えも。

というわけで、ご一緒した仕事で私的ベスト3はこのモータウン・フィリー・テイストの「誰よりもそばにいて」(小林登美子)、全パートがフェアライトだと思われるTOTOのようなロック・テイストの「水の星座・星の星座」(中村由真)、アンプラグドなボサノヴァ・テイストの「てのひらの短編集」(平井菜水)です。

今回の船山さんのCDの曲目を見ると、やはり目立つのは筒美京平さんの作品。京平さんにしても船山さんにしてもこれほどの仕事量がひとりの作家や編曲家に集中する時代はもう来ないのではとも思ったりします。私の書いた曲は「青い風のビーチサイド」(松本典子)、「すてきなジェラシー」(松本伊代)、「センチメンタルはキライ」(仁藤優子)の3曲が収録されていて、光栄の至りです。

船山基紀 サウンド・ストーリー

 

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