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 Nov 19,2020

■ピート・コージーのギター

 1973年ごろのマイルス・デイヴィスのバンドにピート・コージーというギタリストがいました。コージーは様々なエフェクターを使い過度に加工した音が好みだったようですが、その愛用ギターはかなり変わったものでした。

写真(写真上)を見ると、ギブソンF-5マンドリンのボディ・シェイプに逆向きFホールがひとつ、指板上はブロック・インレイ、ヘッドにはやはりF-5のトーチ・インレイが入っています。トップはハカランダのように見え、2つのスモール・ハンバッカーはおそらく独シャーラー製で3ノブ。ちなみに片側のカッタウェイがスクロールしていますが、ギブソン・タル・ファーロー・モデルのようにバインディングでそのように見せているのではなく、実際に隙間が空いているという凝った作りです。

結論から言えば、このギターは日本のモーリス(モリダイラ楽器)が製作したものです。そういえば、昔、広告でこのギターのようなものを一度だけ見たことがあると思い出し、手持ちのミュージック・ライフを探してみると、1973年6月号のモーリスの広告(写真下)にこのギターの写真が掲載されていました。ただし、私自身はこのギターの実物を楽器店で見たことはなかったし、市場に出回ったのは試作品などの数本であると見ています。

ネットで実際に所有している人のこのギターの写真を見ると、レッド・サンバーストに上品なカーリー・トップ、M型のブロック・インレイ、逆向きではないFホール、モーリスの刻印入りミニハム、木製らしきピックガード、エスカッションや4つのノブ、ロッドカバーにDeluxeの刻印など、いかにも全部乗せのプロトっぽくコストがかかっているのが分かります。また海外ではコージーの使用していたそのものの他、ハカランダ・トップの木目が異なるものと、ブラウン・サンバーストでフルサイズの2ハムに4ノブという2本が検索で引っかかってきました。それぞれに仕様が異なるのが試作品説を裏付けるものですが、広いネットの世界で引っかかったのはこの4本だけです(あとは近年、イーストウッドがコージー・モデルとして復刻したギターです)。

モーリスといえば、あのプリンスが使ったマッド・キャットはモーリスが独ホーナー社のためにOEMで製作したギター。昔のギター・ファンなら知っている「モーリス持てばスーパースターも夢じゃない」というコピーは案外的を得ていたのかもしれません。

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