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 Dec 21,2020

■夢と現(うつつ)

 最近、読んだ本の中で強く印象に残ったのは平野啓一郎の「一月物語」。

作者がまだ20代であった1998年の作であるにもかかわらず、最初、その独特の古めかしい文体にとまどいましたが、これも森の中で夢と現を行き来するような不思議な世界へ入りやすくする仕掛けのひとつなのでしょう。おそらく、この作品に触れて多くの人が思い出すのが泉鏡花の「高野聖」だと思うのですが、バックグラウンドには明らかに三島の影が垣間見えるし、「雨月物語」のような雰囲気もあります。

私が読後に思ったのは次のようなこと。作者は緻密なフルオーケストレーションのクラシック音楽を作り、スコアを書いて、それを最先端のデジタル楽器を使い、生楽器と寸分違わぬように再現したのではないかと。聴く人が聴けば、これは生楽器ではないと分かるのですが、ほとんどの人はそれに気が付かない。そんな表現方法ではないのでしょうか。

いずれにせよ、音楽でも映画でも小説でも、最後は肌に合うか合わないかだと思います。好き嫌いのはっきりと出る作品だとは思いますが、私は一度、三島の「金閣寺」あたりを読み直してから、もう一度じっくりと読み直したい作だと感じました。

 

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