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 Jan 8,2021

■キャンデーストアとは

 「大学の若大将」(1961年)で星由里子さんが扮するのはキャンデーストアの店員ですが、キャンデーストアがピンとこなかったのです。製菓会社が経営する売店とカフェ・レストランを兼ねた店舗らしいということは映画で分かったのですが、私が物心ついてから、街でそのようなものを見かけたことはなかったからです。

調べると、キャンデーストアの歴史は古く、1923年、森永製菓が丸ビルに開店したのがはじまりで、飲み物や軽食のようなメニューを制服の従業員がサービスした店とのこと。おそらく当初はコーヒーやアイスクリームなどかなりめずらしいものだったでしょうから、ハイソな場所であったのだと想像します。

そのようなめずらしい場所であったので、映画のロケなどにもよく使われ、小津安二郎のサイレント作品「学生ロマンス若き日」(1929年)で主人公がお茶を飲む場面で森永キャンデーストア(伊勢佐木町の店舗という説あり)が登場しています(バックに「進物に森永のチョコレート」と書かれたポスターが映っている)。

戦前の女優、桑野道子(娘は小津作品にも出演している桑野みゆき)は女優になる前は森永製菓のスイートガール(販売促進のための森永専属のイベントガール)として全国の森永販売店やキャンデーストアを回りました。桑野が初出演した「金環蝕」(1934年)には桑野が銀座で手土産を買うシーンがありますが、買った店は銀座の森永キャンデーストアで、その手土産の包装紙には森永キャンデーストアーと書いてあります(中身はあなたの健康のために!と書かれている森永ミルクチョコレート)。ちなみに銀座の森永キャンデーストアは頻繁に改築されており、映画に登場するのは前川國男の設計したモダンな建物になる前の店舗です。

キャンデーストアは少なくとも1970年代までは存在したようですが、その後、業態変更し、レストラン森永となり、最終的にファストフードの森永ラブとなったようです。そういえば伊勢佐木町の入口付近にあった森永ラブはよく覚えています。つまり、森永ラブのあった場所が戦前は森永キャンデーストアの横浜店であったというわけです。
 

 

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