■TEXT

 Feb 1,2021

■1950年代の勝どき橋

 1950年代の日本映画によく出てくる勝どき橋。

「東京の恋人」(1952年)にはめずらしい開閉するシーンが出てきます。他に「洲崎パラダイス赤信号」(1956年)の冒頭部分、「ゴジラ」(1954年)で壊されたり、小説では三島由紀夫の「鏡子の家」(1959年)にも登場します。

中央部が鉄板になっている。その部分だけが開閉するのである。その前後に係員が赤旗を持って立っていて、停められた車がひしめいている。歩道のゆくても一条の鎖で阻まれている。かなりの数の見物人もいるが、通行を阻まれたのをさいわい油を売っている御用聞きや出前持などもいる。
電車の線路のとおっている鉄板が、その上に何ものも載せないで、黒く、しんとしていた。それを両側から車と人とが見戍っている。
そのうち鉄板の中央部がむくむくとうごき出した。その部分が徐々に頭をもたげ、割れ目をひらいた。鉄板はせり上がって来、両側の鉄の欄干も、これにまたがっていた鉄のアーチも、鈍く灯った電灯を柱につけたまま、大まかにせり上がった。夏雄はこの動きを美しいと思った。
鉄板がいよいよ垂直になろうとするとき、その両脇や線路の凹みから、おびただしい土埃が、薄い煙を立てて走り落ちる。両脇の無数の鉄鋲の、ひとつひとつ帯びた小さな影が、だんだんつづまって鉄鋲に接し、両側の欄干の影も、次第に角度をゆがめて動いて来る。そうして鉄板が全く垂直になったとき、影も亦静まった。夏雄は目をあげて、横倒しになった鉄のアーチの柱を、かすめてすぎる一羽の鷗を見た。(三島由紀夫 「鏡子の家」より)

下の写真は2015年に築地市場に行った時に撮った写真ですが、間近で見た勝どき橋はなにやらリベットだらけの軍艦のような印象でした。

 

■■■■■■■■ kishi masayuki on the web


<<   TEXT MENU   >>

HOME