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 Apr 4,2021

■田中邦衛さんを偲ぶ

 子供の頃に映画でこういうシーンを観ました。その映画は怪獣映画の併映だった若大将シリーズで、仲良くピクニックしていた男女の男の方がいきなり女性を襲うというシチュエーション。間一髪で主人公が助けに入り事なきを得るのですが、これは子供が見てはまずいものだろうという自覚をあり、どきどきしてしまったのでよく覚えているのです。この襲った人が青大将役の田中邦衛さんで、襲われた女性が澄子を演じた星由里子さん、そして助けに入る若大将役はいうまでもなく加山雄三さんであったというわけです。

あの映画で大学生を演じていた田中さんはとうに30歳を越えており、俳優座出身という裏書があっても青大将まではなかなか世で認知されるほどの役に巡り合わなかったのだろうと推察いたします。ところが東宝の正真正銘のサラブレット、加山さんを主役に置いた若大将シリーズが始まる前に田中さんはすでに黒澤明監督の作品「悪い奴ほどよく眠る」に出演しており、これ以降も数本の黒澤作品に出演することになります。また、俳優座の3期先輩の仲代達矢さんの推薦で小林正樹監督の「人間の條件」(第三部)にも出演しており、これも若大将シリーズ以前の仕事です。

そして若大将シリーズで顔が売れてくるとまさに八面六臂の活躍ぶり。あの癖のある青大将という役を演じながら東映の任侠系作品や、海外でも評価の高い小林正樹監督の「怪談」などにも出演されています。驚くのは「怪談」と「エレキの若大将」が同じ1965年の作品で、その役の幅広さには敬服してしまうのです。ちなみに田中さんも仲代さんと同様、特定の映画会社とは専属契約を結ばなかったようで、同時期に複数の映画会社の作品に出演できたというわけです。専属契約の話は仲代さんの著書に詳しく書いてありますが、専属契約を結べば金銭的には圧倒的に優遇されるようになりますが、他社の映画や舞台には出られなくなることになり、仲代さんも専属契約は結ばなかったそうです。

そんな作品の中で私が押したいのは田中さん主演の「刑事物語 兄弟の掟」(1971年)。この作品、若大将とは逆で加山さんが脇に回っているのです。さらにこれは未見ですが、1977年に東宝が製作したテレビドラマ「華麗なる刑事」。こちらは草刈正雄さんとのコンビの刑事もの。1970年代の東宝サラブレットであった草刈さんに再度、田中さんをあてがうキャスティングは東宝がいかに田中さんを逸材と見ていたかの証拠ではなかったのでしょうか。




 

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