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 Sep 10,2021

■筒美京平さんのこと

 昨年、筒美京平さんのことはここに書きましたが、ミュージック・マガジン2020年12月号に特集があったことを知り読んでみました。

そういえば、京平さんと仕事をご一緒する前から京平さんはビルボードのトップいくつかのシングルは全部取り寄せていて、これはと思った部分を記録しているという話をよく聞いたのですが、この本の貴重な1997年のインタビューでその噂はほぼ本当だったと分かりました。

私が京平さんの曲について思ったことは、変則の小節数が多いということ。通常、ポップスの小節数は各モチーフがだいたい4の倍数だったり偶数であることがほとんどなのですが、京平さんの場合は例えば、代表作の「ブルー・ライト・ヨコハマ」(いしだあゆみ)の頭のAモチーフは9小節(5+4)、「17歳」(南沙織)もAは9小節(5+4)と変則です。これはおそらく詞先(詞が先に出来ていてそれにメロディをつけること)でこうなったと考えられるのですが、これ、やってみると至難の業です。つまり、フックをつけながらも自然にまとめるというのが技なのです。

それから、これは本の中で近田春夫さんが指摘されていますが、京平さんは作曲と同時にスコアが書けた(つまり編曲までできた)こと。そして、スコア上に漂うモータウンやフィリーソウルの弦や管の作法。同時代の作編曲家でいえば鈴木邦彦さんもソウル系の香りのするスコアを書かれますが、歌謡曲というフィールドにそれまでのジャズ系スコアから意識的にソウルの手法を取り入れたのは相当早かったという気がします。確かに「サザエさん」とか「嘘でもいいから」(奥村チヨ)などの弦管はそのあたりの影響が感じられます。

誤解を恐れずにいえば、京平さんの音楽に対するスタンスはCM音楽のようなものであったのではないかと。CM音楽は商品がメインで音楽はそれを売るためのもの。それではCM音楽は一段低いところにあるかといえば、真逆で、へたな音楽家より時代が求めるものや広範囲の専門知識を持っていないとできないプロ中のプロの仕事です。いわゆる芸術的に高みを目指すというより、売り出すためにあらゆる知識を総動員してキャッチーな曲にまとめあげる職人芸です。そこには質が高いので売れなくても関係ないといったエクスキューズの入る余地はありません。

そして、多くの作家は売れた時になんでも引き受ける職業作家でいることに飽き足らず、まるでアイドルに書いていた自分が仮の姿であったかのように商業的ではないアカデミックな音楽をやりだす人もいますが、京平さんは生涯、職業作家というフィールドにずっしりと腰を据えて黙々と仕事をこなした人という印象です。なかなかその情熱は見えにくいですが(ご本人もあえてそういう部分を見せたがらないお人柄だったかと)、曲を作る時の熱量は計り知れないものであったと想像するのです。


 

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