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 Dec 6,2021

■ゲット・バック

 ビートルズの「ゲット・バック」。トータルで8時間弱を観終えました。

かつてのマイケル・リンゼイ=ホッグ版映画「レット・イット・ビー」を最初に観たのはファンクラブのイベントか何かだったような気がします。公開から数年してから深夜のテレビで日本語ナレーション版も放送してました。誰にでも愛されるファブフォーのイメージが強かった私にとってこの映画は現実を見たようで複雑な気持ちになった覚えがあります。つまり、「ハード・デイズ・ナイト」や「ヘルプ」の方が虚構の世界だったということを思い知らされたのでした。

その「レット・イット・ビー」のために撮影された膨大なドキュメントを時系列で再構築して、8時間にまとめたのが今回の「ゲット・バック」ですが、50年経って観てみると感じ方もかなり異なります。例えば、有名なポールとジョージの言い争うシーンは前後がカットされていないために、ポールの言い分も理解できたし、ほとんど毎日ジョンと一緒にスタジオ入りするヨーコさんの鉄のメンタルにも驚きます。ビートルズをバックバンドにして歌った人はトニー・シェリダンとヨーコ・オノぐらいなのでは(笑)。

考えてみればメンバーはまだ20代なんですよね。若くしてとんでもない成功が手に入ったら、自然体でいるのは大変なことだと思いますし、エゴが出てくるのは当然なのかもしれません。父親のような存在であったマネージャー、ブライアン・エプスタインはすでに亡くなり、周りの同年代や年長者たちはエルヴィスの取り巻きと同様にイエスマンになって、もうなんのアドバイスもできないように見えます。音楽的に父親役であったジョージ・マーティンの常になにか言いたげな表情も気になります。ルーフトップとその後のプレイバックを聴くメンバーの楽し気な表情がこの映画の数少ない救いでしょうか。

パワフルで、髪も肌もつやつやなビートルズを観るのは楽しかったけれど、一方では毎年出る出ると言われながら、この50年間、誰も手を付けなかったコンテンツだった理由も少し分かった気がします。加えて、ジョン、ジョージ、プレストン、マーティン、リンダ、モー、マルなど登場する人物の多くがもうこの世にいないということを考えると時代は確実に動いていて、すでにビートルズを知らない世代がいることも当然なのだと思いました


 

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