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 Oct 20,2022

■音響ハウスの映画

 銀座にあるレコーディングスタジオ・音響ハウスのドキュメント映画「音響ハウス Melody-Go-Around」(2020年)を観ました。

1980年代初頭はCM音楽でも音響ハウスのような立派なスタジオを使うことも多く、私もよく通いました。私の記憶が正しければこの時代、音響ハウスにはめずらしいテレフンケンの24トラック・レコーダー(たぶんTelefunken M15)があったと思います。また、天井が高い方のスタジオには確か階段で上がっていく中2階のブースがあった気がします(もしかすると別のスタジオだったかも)。学生だった私は有楽町駅で降りて、銀座通りを歩いてスタジオまで行きましたが、このやや時間のかかる徒歩の時間に学生からミュージシャンへのモードを切り替えていたのだと思います。

映画の方はその当時、大変お世話になったCM制作会社の方などが出演されていて懐かしかったのですが、今になって思えば、よく右も左も分からない自分のような者を何度も使ってくれたなと感謝するばかりです。私にとってCM音楽はプロの世界の初洗礼で、学ぶことが多かったのです。現場でどんどん変わっていく対応力や、その時代になにがトレンドなのかといったこと、またフックをコンパクトにまとめる技術など、その後の私のソングライティングに与えた影響は少なくなかったです。CM音楽はいかに商品を際立たせるかの勝負で、そこには広範囲な音楽的知識とある種の割り切りとが共存する世界。このような実戦的なノウハウを体得することもプロの世界で生きていくのに決して無駄なことではありませんでした。ただし、大勢のクライアントが立ち会っている中でのレコーディングはかなり神経がすり減りはしましたが。

レコード会社のスタジオでさえ縮小傾向にある現代で、民間の有名スタジオも相当数がなくなってしまった今、音響ハウスが今も現役で可動しているのは驚くべきことなのかもしれません。ちなみにこの映画、コロナ前の2019年に制作されたものですが、誰もマスクをしていないのがもう違和感を感じてしまうようになりました。コロナの2年間で実に様々なものが変わったのだなと痛切に思います。


 

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