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 Dec 25,2022

■マホガニーの部屋

 「翳りゆく部屋」は1976年にリリースされた最後の荒井由実名義のシングル。ユーミンのベストだと推す人も少なくない名曲です。

この曲にはユーミンが14歳の時に書いたという「マホガニーの部屋」という別の歌詞があり、ブレーク前のライブでも披露されていたそうです。

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「マホガニーの部屋」

灰色の夕暮れがそっと 私に訪れた時
私は部屋のドアを開けて ランプに暗い火を灯す

冷たいシーツに足を伸ばし 闇の世界の入り口で
私の静かな友達を ただひとり迎え入れる

愛よ 色褪せた 遠い日の光よ
もう二度と戻らない 私が今死んでも

ランプの消えた後にほのかな 油の匂いがする
彷徨い歩くミニヨンのように 霞んでゆく細い煙

愛よ 色褪せた 遠い日の光よ
もう二度と戻らない 私が今死んでも

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(ミニヨンとは、フランス語で「赤ちゃん」または「子供」の意味でしょうか)

リリースされた「翳りゆく部屋」の歌詞は恋を失った内容に書き変えられていますが、原型の「マホガニーの部屋」には恋愛の表現はなく、極めて内省的な内容です。「私の静かな友達」の出現や、1番で「暗い」火を灯したランプが2番では消えていることを考えれば、このジャケットでユーミンがなぜ喪服のような服を着ているかが判然とするのです。私見ですが、この世界をより進めて、完成させたのが1980年の「コンパートメント」という気がしますが、「マホガニーの部屋」は誰かに読まれることを前提としていない無垢な状態が心を打つのです。

しかし、こんな詞を14歳で書き上げるとは、やはりユーミンは完成形としてすでに10代で出来上がっていたのだと溜息が出てしまいます。感受性が豊かなのは10代の特権かもしれませんが、それをなにかの形にしてアウトプットする能力は選ばれた者だけに与えられた恩寵としかいいようがありません。ボブ・ディランがノーベル文学賞を貰えるなら、ユーミンと中島みゆきさんにも芥川賞だろうと真剣に思います。

ちなみにこのジャケット写真の撮られた場所はずっとステージかなにかだと思っていましたが、「翳りゆく部屋」で使われたパイプオルガンのある目白の東京カテドラル聖マリア大聖堂で間違いないと思います。



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