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 Aug 24,2023

■流れる

 成瀬己喜男監督の「流れる」(1956年)を久々に観ました。

山田五十鈴を軸に、田中絹代、杉村春子、岡田茉莉子、高峰秀子とキャストも豪華ですが、その中で目を惹くのは、戦前のレジェンド女優、「日本の恋人」とまで言われた栗島すみ子が特別出演していること。おそらく戦後の出演作はこの1本だけだと思われ、その意味でも貴重です。13人の弟子を引き連れ撮影所に入り、蒲田の助監督時代を知る成瀬監督を「ミキちゃん」と呼び、すでに先生と呼ばれていた山田、田中でさえ栗島にだけはびびって、遅く来てはまずいと早朝から撮影所に来ていたそう。自分が恐れられていることを知らない栗島はそれを見て「最近の撮影はこんなに早く来なくちゃいけないの?」と言ったとか。本編を観ても飄々としたセリフ回しの栗島は確かに大御所のムードがあります。

原作は幸田文の小説で、一見華やかに見える芸者の世界の裏側という感じですが、やはりクライマックスは最後の方の杉村が男と別れて今までたまっていたものを全部、山田と高峰にぶつける場面。ここで杉村が全部持って行っちゃう感があります。

「君美わしく」(川本三郎著)によれば、杉村の演じる芸者のセリフは結構杉村自身が考えた部分があったそう。なるほど、それが超自然な感じを与えるのかも。借金している山田の姉にいやみを言われて「ふふ」と鏡の前で笑う場面や、酔っ払って家に入ってきて、玄関でつまずく動きや「おはようござい」というセリフ回しなど、思わず2度見してしまうほどです。いやいや、杉村さんを巨匠と呼ばれる監督の誰もが使いたがった理由がよく分かります。



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