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■Songwriter

 私は和モノでも好きなアーティストはたくさんいますが、その中でもアルバムはほとんど全部聴いているとい
う人の一人が杉真理さんです。

この人のブルーノート(注1)の使い方はホントにかっこいいです(分かんね〜って方はアルバム「Songwriter」の
「My Baby's Back」などを聴いてみて下さい)。
日本ではこのブルーノートを使ってかっこいい曲を書ける人はあまりいなくて、あったとしても、たいてい定型の
ロックンロールのようになってしまいます。つまり、ブリル・ビルディングの作家(注2)たちやレノン=マッカートニ
ーが試みたようなクレバーなひねりがあまりないのです。
1970年代の歌謡曲というジャンルでの、ブルーノートありで、しかもひねりのある代表曲はフィンガー5の「恋の
ダイアル6700」(作曲/井上忠夫)、「個人授業」(作曲/都倉俊一)、ピンクレディの「渚のシンドバット」(作曲/
都倉俊一)だと個人的には思うのですが、1960年代にはこのセブンスという音階が理解できなくて「Heartbreak
Hotel」(注3)をマイナー・コードで演奏していた日本のバンドがあったなんて笑えない話も聞いたことがありま
す。  

まあ、それほどブルーノートという音は日本人の本来持っている感性とは相容れない部分があり、馴染むまで
時間がかかったということなのでしょう。そして、それがようやく馴染み始めた頃にタイミングよく杉さんが登場し
たという見方もできるかもしれません。

私のビクター時代のバンドに当時の杉さんのバンド「ドリーマーズ」のメンバーが4人(嶋田陽一さん、京田誠一さ
ん、清水淳さん、井上哲也さん)もいたために当時から杉さんの話はよく聞いていたのですが、実際に杉さんご本
人とお会いしたのは割と最近の話です。

1996年にあるバンド・コンテストがあり(余談ですが、このコンテストの大阪予選には「ポルノ・グラフティ」がエン
トリーしていました)、私は審査員の一人で、その場に杉さんも同席していたのです。その時に実は「Mari &
Red Stripes」持ってますとか、「BOX」の3作目がぜひ聴きたいですとか、パイロットはいいですねとかいう話を
しました。杉さんの印象は思っていた通り、「音楽がどうしようもなく好きな人」でした。

近年、BOXは活動を再開して、ファンとしては嬉しい限りです。

(注1)ブルーノート〜ブルースのような黒人音楽を発祥とするもので、スケール上、3度と7度が半音下がる音。
(注2)ブリル・ビルディングの作家〜1950年代後半から1960年代初期にかけて、アメリカのポップス黄金期を
支えた作家たちの総称。
(注3)Heartbreak Hotel〜エルビス・プレスリーの1956年の大ヒット曲。黒人のR&Bと白人のC&Wのテイストを
併せ持った傑作。日本でも多くの歌手がカバーした。

杉真理のビクター時代のデビュー・アルバム
「Mari & Red Stripes」(1977年)
このタイトルとジャケットはウイングスの変名バンド
「Suzy & The Red Stripes」からのものでしょう。
セカンド・アルバム「Swingy」ととに何度か再発
されています。



                                                          2002/6/22

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