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 Oct 1,2024

■時代遅れのRock'n Roll Band

 2022年、コロナの真っ只中にリリースされた「時代遅れのRock'n Roll Band」は桑田佳祐さんの呼びかけで同世代のミュージシャンが集い、製作された曲でした。

最初にこのビジュアルを見た時、ああ、これはTravelling Wilburysをやりたかったのだなと即座に理解しましたが、メンバーは桑田さんの他、世良公則さん、佐野元春さん、Charさん、そして野口五郎さんというメンバーでした。

このメンバーで一番意外な感じがしたのが野口さんでした。私の認識では野口さんは芸能界または歌謡界の方で、他のメンバーとは活躍するフィールドの全く違う人という印象を受けたのです。佐野さんを除けば、それぞれがテレビの歌番組に頻繁に出演した時期もあり、広義では芸能界と重なる部分もありますが、特に佐野さんと野口さんの立ち位置の違いは、海外でいえば、エルヴィス・コステロとデヴィッド・キャシディぐらいの距離感があったと思います。

ところが、ふと思ったのです。野口さんは実はたまたま芸能界のスターになってしまった人で、本来なら桑田さんたちのフィールドにいるべき人だったのではなかったかと。驚いたのは、野口さんがスターと呼ばれるようになった1976年、若干20歳でかなり本格的な自宅スタジオを持っていたことです。楽器や機材を見ると、とても芸能人のお遊びと言えるようなレベルではなく、おそらく収入のかなりの部分をこのスタジオに使っていたと思われるのです。その情熱は1990年代に加山雄三さんが当時6000万円だったシンクラヴィア(デジタル・オーディオ・ワークステーションの草分け的楽器)を密かに所有していたことに匹敵すると思います。

つまり、野口さんは器用な人ですから、テレビのバラエティもコントも出来るし、映画にも主演しましたが、それと同じ熱量で歌謡曲とは異なる音楽もやりたかった人ではなかったのでしょうか。おそらく桑田さんはそれを見抜いており、野口さんにオファーをしたのではないかと思ったのです。

そして、野口さんがメンバーに入ることにより、歌謡界へのリスペクトが加味され、テレビに出なくなったミュージシャンの閉鎖性なども薄まり、大変良い塩梅にまとまった気がするのです。あのPVの中で、なんといっても野口さんの嬉しそうな表情はひときわ印象に残っています。つまり、あのプロジェクトで一番の要は野口五郎さんが参加したことだったような気がするのです。


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