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Dec 11, 2005 

■キャロル・ケイ

 
本の女性スタジオミュージシャンというと、たいていコーラスか弦で、ギターやベースの人を私はまだ見た
ことがないのですが、1960年代のアメリカにはすごくクールな女性ベーシストがいました。

キャロル・ケイ。この名前は知らなくても、音楽好きなら彼女のプレイした音源を一度は聴いていることでしょう。
特によく知られているのはビーチボーイズでのプレイ。ケイはブライアン・ウイルソンにとても信頼されていたらし
く、彼らの多くの曲でプレイしています。ビーチボーイスの名曲「God OnlyKnows」も彼女のプレイです。モータウ
ンの超有名な音源でも、これは実はケイのプレイではないかと関連フォーラムではたびたび論争になっているよ
うです。いずれにせよ、ケイは全くジャンルの異なるタイプのアーティスト(例えばシナトラとザッパのような)から
も声がかかるプロ中のプロであったことは間違いありません。

当時は相当名の知れたバンドの音源でも様々な理由でスタジオミュージシャンが起用されるケースがあり、ケ
イとともにハル・ブレイン(ドラム)なども「影武者」として膨大な数のセッションに参加していました。モンキーズ
が自身で演奏していなかったことは良く知られていますが、LA近辺で「影武者」を使ったのは決して彼らだけで
はなく、我々が良く知っているような「実力派」バンドのヒット曲にさえそのような例は珍しくないという研究もある
ほどです。そして、このあたりの真実はアーティストサイドとしてはあまり触れられたくないということもあり、それ
が彼らの匿名性をさらに深め、途方もない数のセッションをこなしていたにもかかわらず、その名前は一般には
知られていないという現象を導いたのだと考えられます。まして、パーソネルなんて1960年代にはレコードの
どこにも書かれていなかったことですし・・・。

当時のLAでのスタジオワークは3時間が1セットで、その間に3〜4曲録音するというケースもあったといいます。
さらには1日に3セットのセッションでアルバム1枚全曲録音するなんてこともあったと。ケイの1960年代はこのよ
うな殺人的に多忙な状況だったので、ベースの弦を張り替える時間さえなく、2年ごとにベースそのものを買い
換えていたらしいです。これなどはまさに「職業音楽家」と呼ぶにふさわしいすごいエピソードですな。

岸正之ホームページ kishi masayuki on the web


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