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Mar 5, 2007 

■カバーのあり方

 
成の曲をもう一度掘り起こして、取り上げるカバーを作る際、避けては通れないポイントは、いかにオリジナ
ルのカラーと折り合いをつけていくかだと考えます。

例えば、以前、ユーミンの曲を多数の有名アーティストがカバーしたアルバムがありましたが、オリジナルの
細かい部分までインプットされている私の頭で聴くと、どうしても違和感を感じてしまいました。もっと言ってしまう
と、初期の荒井由実時代の作品などはもはやリメイクの方法がないほど強い個性だったのですな。いや、オリジ
ナルを知らない若い人たちはまた違う印象だと思うのですが、あの時代の空気感や、どこかへ行ってしまいそう
なあやうげなボーカルとセットで心に入ってきた感じはなかなか強烈で、別の解釈を聴いても容易には受け入れ
難いということなのです。

で、今まで聴いたカバーもので印象に残っているもの。

まず、竹内まりやさんの「ロングタイム・フェイバリッツ」。選曲はアメリカン・ポップスで、ほぼオリジナルに則した
アレンジを生オーケストラを使い、今のレコーディング・クオリティで演るという切り口。実はこういうカバーが一番
時間も金もかかるというわけで、限られたアーティストのみが実行できる贅沢な手法です。広いスタジオで録音
されたライブ感に、クラシックな選曲、歌詞が一部日本語詞なのも、とてもやりたい方向性が見えています。
目新しさや意外性はないものの、リスナーが期待しているものを手堅く、丁寧な形で提供するという、まさにプロ
の仕事です。

一方、それとは正反対の切り口で、成功しているのが椎名林檎さん。この人のカバーの選曲はとても面白いで
す。究極は東京事変名義でカバーしていた「車屋さん」。元々は美空ひばりさんの曲で、オリジナルそのものも
ジャズの4ビートに日本メロを融合したとてもプログレな作品なのですが、まず、これをカバーしようと持ってきた
ところだけでも評価に値します。重たい4ビートとボサっぽいアレンジで、この難しい曲を彼女が完全に自分の
モノにしているところも驚き。いやー、この人の引き出しの多さはすごいです。時代に媚びていない感性もいい。
言うなれば、はずす時もでかいけど、はまると中毒になるAll OrNothingのテイスト。個人的には誰よりも椎名林
檎は世界で通用する(特にイギリス圏)アーティストだと思っているのですが、いかがでしょう。

<<これはカバーというよりは完全コピーと言ったほうがいいかもしれません。
「ミート・ザ・バッドボーイズ」。当時は大手のレコードメーカーもこういうことを
やる懐の深さがありましたな。

岸正之ホームページ kishi masayuki on the web


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