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Sep 7, 2007 

■3トラックの時代

 
1960年代初期、ロンドンのEMIスタジオにはまだ2トラック・レコーダーしかありませんでした。そこにようやく
Studerの4トラックが入るのが1963年の末のこと。ビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンの言葉を
借りれば、EMIスタジオは新しい機材の導入には非常に慎重だったということです。

ところが、アメリカではこのマルチ・トラックの技術は遥かに進化していました。1950年代中期にはすでに1/2イ
ンチテープを使用するAmpexの3トラック・レコーダーが稼動し、多くのクラシックやジャズのレコーディングで使用
され、名音源を輩出しました。

このかつてアメリカでは標準のシステムだった3トラックという規格は、元は映画技術を発展させたものであった
ということですが、2、4、8・・・という偶数トラックのシステムに慣れた現在のイギリスや日本の感覚では、あまり
馴染みのないものです。

<<このCDはBMGやRCA所蔵のオリジナルの3トラック・マスターから
JVCのXRCD24というマスタリング技術を使い、高音質を実現している
シリーズです(左は私の好きなラフマニノフのピアノ・コンチェルトNo.2
のルービンシュタイン盤)。
通常のCDプレイヤーで24bit相当の音質が得られるというところが売り
ですが、今まで耳の前にあった膜が一枚取り去られたと感じるぐらい、
透明感や個々の楽器の輪郭の明瞭さに驚きます。
このような音源を聴くと、決してノスタルジーという観点ではなく、1950
年代にすでに録音技術はひとつの完成形に到達していたのだと痛感
する次第で、アナログテープの数値に表れない情報の記憶量に感服
いたします。

岸正之ホームページ kishi masayuki on the web


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