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Apr 16 ,2013

■Woman〜Wの悲劇より〜

 
多いユーミン作品の中でも、密かにベスト10に入るほどの傑作だと思っているのがこの曲です。

1984年に薬師丸ひろこさんのシングルとして提供された曲で、詞は松本隆さん。詞はユーミンの作風とはかなり異なる感じです。

曲は基本的に2分音符とそれに続くアウフタクトという同じ譜割の連続で構成されています。これが普通だったら単調になるのですが、あえてこれをさざ波のごとく最後まで押し通すというのがこの曲の醍醐味です。A部分(曲の頭の8小節)はすごくユーミンぽい4度進行メロで、おそらくすぐにできたはず。続くA'(8小節)の後半からのたたみかけるように出てくる仕掛け方も職人技。実はA'の最後の音は曲の音域の中でもかなり上のほうで、ここからサビで上に行こうにも残り1音か2音でボイスレンジを使い切ってしまうという状態。さて、ここからが悩みどころだったはずです。

で、思いついたのが転調。4度上の調に行くわけですが、絶妙なのは頭でサブドミナントの代理コードに行って、しかも頭メロはそのコードのナインスに行ってるんですよ。主メロがテンションに行くという手法はボサノヴァによくあるのですが、これ思いついた時は小躍りだっただろうなぁ。これがこの曲の最大の聴かせどころだと思います。実はサビの頭の音は前のA'最後の伸ばしの音から1音しか上がっていないんです。これが転調の効果でしょうか、なぜかすごく上の音に行ったように聞こえるのです。この仕掛けによって同じ譜割の連続でも色彩がいきなり変わって広がりが出るというわけです。別の言い方をすれば、このサビの展開を際立たせたいために最後まで同じ譜割で行ったのではないでしょうか。ちなみにユーミンの他の曲で4度上の転調といったら、ノーサイドがそうですが、同じ1984年の曲です。ノーサイドは転調頭でトニックコードへ行っているのではっきりとした転調しましたよ感があります。

これを書いていてひとつ思い出した話があります。ドラムの打ち込みでカチカチのインテンポで打ち込んでも、強弱をつけると不思議なことにグルーブが出るのです。これをコードにあてはめると、コードはいわゆるメロディの背景になるわけですが、背景が変わることよって音程の聞こえ方も変化するのでしょうね。この曲のA'からサビへの変化はまさにそれを裏付けている実例だと思います。

薬師丸さんといえば、当時、モーツァルトのピアノコンチェルトに日本語詞をつけた曲をリリースして、これは新しい方向性かもとすごく印象に残っていました。これをディレクションしていたのが東芝のS氏。おそらくS氏が目指したものはフックだらけのキャッチーな曲よりも、ノーブルなクラシック寄りの世界観であったと想像いたします。そして、ユーミンがこれほどまでの名曲を書いたのもS氏の尽力によるところが少なくなかったのかもしれませんな。

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