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Jun 17,2014

■映画「七色の花」

 
節子さんの出演した「七色の花」(1950年)という作品があります。これは映画会社にも東京国立近代美術館フィルムセンターにもオリジナルネガどころかプリントさえなく、個人のコレクターが所蔵していたことが判明し、新潮社の「原節子のすべて」(2012年)という本に付録として初めてDVD化された作品です。時期としては「晩春」と「白痴」の間ですから、もう原さんが超絶きれいな頃で、これだけでも十分価値があると思い観たら、いやいやどうして映画としても主役の杉村春子さんの好演が光る秀作でした。

それにしても日本映画の最盛期前夜、小津作品にも匹敵するキャストで製作された相当ちゃんとしたこの映画が映画会社にも残されていなかった経緯はどのようなものだったのでしょう。当時のフィルムは自然発火の可能性もあるナイトレートという可燃性の材質で、火災を恐れた映画会社は上映後の可燃性フィルムを積極的に破棄したという話もあります(または消防法の改正により可燃性フィルムを所有するための特別な建物が必要となり、それに対応できなかった会社がやむなく可燃性フィルムを処分した)。そういえば「ニューシネマパラダイス」でも「アーティスト」でもフィルムが燃えるシーンがありましたし、現実でも当時の映画館や現像所では頻繁に火災が発生し、「東京物語」を含む多くの貴重なオリジナルネガが焼失したといいます。さらに、映画を文化財として長く保存するという意識も希薄だったとのこと。「七色の花」が残っていなかったのはこれらのやむを得ない事情によるものだったのかもしれません。
 
 

 

 
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