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Aug 8,2014

■「耳なし芳一」のお話

 
供の頃、読んだ「耳なし芳一」の話は相当怖かったのです。何が怖かったかと言えば、読んだ文学全集の1ページを割いた大きな挿絵。そこには全身にお経を書かれた芳一の絵があり、そのおどろおどろしい姿は悪夢を見そうなぐらいのインパクトでした。

最近、その「耳なし芳一」を映画で観ました。1965年の「怪談」(小林正樹監督)という4本のオムニバスから成る3時間を超える大作の中で、その3番目が「耳なし芳一」でした。これを観て「耳なし芳一」という物語の感じ方が全然変わりました。

どのように変わったのかといえば、心を動かされる部分が子供の頃いたずらに怖がったお経を書かれた芳一の姿やオチの耳を切られるところではなく、それにつながっていく没落した平家の霊を弔わせるために、死んでもなお幽霊となって芳一のところを訪れる何とも物悲しい情緒にひどく共感したのです。このあたりがあまりにも日本的な情緒なので、これ、本当に小泉八雲(日本に帰化した白人)が書いたものなのかと調べると、やはり元は地方に古くからある話を小泉が怪談として紹介したということでした。

1本目の「黒髪」は溝口の「雨月物語」を彷彿させるし、もののあわれとか無常とか日本的情緒炸裂のこの映画、どのシーンも信じられないほどきれいだし(セットの空の表現など息を呑むほど美しいです。美術の戸田重昌という方の仕事)、キャストも豪華。素晴らしい作品です。

 

 
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