■水の星座・風の星座
レコード・コレクターズ11月号に編曲の船山基紀さんの貴重なインタビューが掲載されていましたが、私が船山さんとの仕事で忘れられない曲のひとつは、アイドルの中村由真さんに書いた「水の星座・風の星座」(1988年)という曲です。
この曲はアルバム用として書いた曲でしたが、上がりを聴いて予想外の出来に舌を巻きました。あの頃、船山さんはフェアライトを多用していたので、この曲もおそらくフェアライトによるものだと思われますが、その硬質で、ジャストなビートが佐藤純子さんの書いた幻想的な詞ととても良くマッチしていて、独特の世界を作り出していました。言い方を変えるなら、全然アイドルっぽい仕上がりではなく、このままのオケでアイドルではない男性シンガーが歌っても違和感のないサウンドでした。
万人受けするヒットが要求されるシングル曲に比べ、遥かに自由度の高かったアルバム曲ではこのような予期しないものが生まれる可能性が高かったのです。この曲では中村由真さんの歌にもかなり深めのハーモナイザーがかけられており、シングルならまずこのような処理はしないでしょう。
久しぶりに聴いてみると、シンバルやサックスなどはいかにもサンプリング初期の荒いサウンドで、フェアライトが万能だと思われていた時代の勢いあるムードを思い出して懐かしかったのですが、クリエイターの個性とは案外アルバムの1曲のような目立たない場所で色濃く現れているのかもしれません。
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