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Jun 12,2015

■わたしの渡世日記

 峰秀子さんの「わたしの渡世日記」(1976年)を読了。

かなりの紙面を割いているのは養母のこと。養母との壮絶な愛憎劇はこれを吐露して楽になりたいがためにこの本を書いたのではないだろうかと思うほどです。そして、黒澤明監督の師匠である山本嘉次郎監督の作品には出演している高峰さんが、なぜ黒澤作品には1本も出ていない理由も分かりました。

意外だったのは、高峰さんにとってはどちらかといえば異色な作品である「カルメン故郷に帰る」(1951年)の記述がかなり多く、逆に「浮雲」(1955年)、「流れる」(1956年)などの傑作がある成瀬巳喜男監督に関しての記述が比較的淡白に記されていることで、このあたりは監督との相性というものがあったのでしょうか。高峰さんが舌をぺろっと出すシーンが何度も出てきたのは確か小津安二郎監督の「宗方姉妹」(1950年)だったと思いますが、これも記述が少ないと思いました。ちなみにこの小津作品の翌年が「カルメン〜」なのですから、やはりその落差はすごいのです。

私が高峰さん出演の映画で強く印象に残っているのは、1960年代の「放浪記」(1962年)や「ひき逃げ」(1966年)のような作品です。特に「放浪記」のわざと美しくない風にしたメイクや、それまでの高峰さんのイメージとかけ離れた演技は円熟の域に達した女優魂を十分に感じさせるものでした。

最後に、この本の中で随所に出てくる「ゴザる」という言葉。「もしも、わたしがゴザったら・・・」という風に使われていますが、初めて聞く言葉でした。文脈からそれが「死ぬ」という意味だとなんとなく分かりましたが、すごく高峰さんらしい表現で吹き出してしまいました。他の本では「オッシヌ」なんて表現もありました。



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