■TEXT

Dec 23,2015

■年末映画放談

 年は比較的近年ものの映画を観る機会が多かったのですが、その中から心に残った作品を観た順番で3つほど。

「フラワーズ」( 2010年)
日本の代表的な女優さんを6人起用したということで話題になりましたが、内容も三世代に渡る女性の生き方を丁寧に描いた素晴らしい作品でした。最近の日本映画がだめになったと思ってる人はぜひこの作品を。

「春の雪」(2005年)
三島由紀夫の原作とは若干異なる主題で、原作には出てこないエピソードや省略された部分もありますが、美しく儚げな映画です。映画で感動したら、原作も読んでみると、また違う感動に巡り会えるかもしれません。

「海街diary」(2015年)
鎌倉に住むちょっと複雑な四姉妹の物語。美しい映像に菅野よう子さんの素晴らしい音楽。配役も豪華ですが、中でもすごかったのが大竹しのぶさん。この人がいるだけで映画の密度が上がります。夏帆さんやリリー・フランキーさんの独特の雰囲気も光っています。


 して、今年は原節子さんが亡くなった年でもありました。原さん出演で好きな映画を3つほど。

「晩春」(1949年)
原さんといえば小津安二郎監督は外せませんが、原さんの存在感が際立っているという意味では、「東京物語」よりこれではないでしょうか。小津監督が原さんを起用した紀子三部作の第一作目。自転車で海岸を走る原さんの表情は神々しいほどです。「おたくわん」とか思わず笑ってしまうセリフもあります。最後に原さんの文金高島田姿で完璧です。多くの人が日本的なものに対して自信を喪失していた占領下のこの時期、これほどまでに日本的な情緒を前面に出した小津さんはやはり信念のある人だったと思うのです。

「白痴」(1951年)
一方、これは重く暗い黒澤明監督作品。小津作品での明るく非のうちどころのない紀子役に比べ、かなりダークサイドな原さんが見られます。森雅之さんが「あなたはそんな人じゃないのに」と言った時の原さんの表情は映画史上に残る名シーンだと思います。
思えば、あれほど日本情緒満載の小津作品に当時の女優さんの中でも抜きん出て洋風のルックスだった原さんが起用されたというのも興味深い事実ですが、この映画ではその洋風のルックスがスケールの大きい物語と見事にマッチしており、その対比で普段ならかなり洋風な印象の三船敏郎さんがのっぺりとしたしょうゆ顔に見えます。
映画会社の意向で相当カットされたシーンがあったといいますが、どこかにカット前の長尺状態のフィルムが存在しているという話もあります。観てみたい!

「お嬢さん乾杯!」(1949年)
めずらしい原さんのコメディエンヌぶりが見られる木下恵介監督の映画です。原さんは五社協定以前の人なので、映画会社の枠を越えて様々な監督と仕事をすることが出来ました。これほどアメリカナイズされた映画なら、GHQの検閲も問題なかったのでしょう。前の2作品はたびたび解釈で論争になるような文芸作品的な要素もありますが、これは誰もが楽しめる娯楽作品。分かりやすいストーリー、軽快なテンポ、耳に残るワルツの主題歌も含め、大変都会的な作りです。ラストシーンの音楽の冒頭が同じ松竹のヒット作「愛染かつら」の主題歌になるのも当時は映画館が大爆笑だったのでしょう。

■■■■■■■■ kishi masayuki on the web


<<   
TEXT MENU   >>

HOME