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 May 10,2019

■TOTO "Africa"考

 この曲がリリースされた1982年、私はすでにプロのミュージシャンとして活動していました。面白い曲だなと思ったけれども、自分に要求されているのはこういうのではないと深く分析することはありませんでした。

最近、youtubeでこの曲の様々なカバーを聴くうちに、ちょっと気になる部分があり、採譜してみると色々なことが判明。メロディはとてもシンプル、頭のメロなんてチュ−リップの「夏色のおもいで」(君をさらってゆく〜)の頭とほぼ同じです。サビもトップの主旋律なんて基本ドドドドドドド、ドーシシーの繰り返しで、これ職業作家がやったらぶっとばされそうな(笑)展開です。コードも特にきついテンションはなく、どちらかと言えば分数系。

ところがこの曲、実に巧みな仕掛けがあり、味わい深いのです。まずその1つ目の仕掛け、AセクションとBセクション(サビ)で調が変わること。この転調は巧みです。イントロのシンセブラスのフレーズですでに転調への伏線が提示されており、Aセクションの終わりに毎回出てくるこのフレーズがBセクションへ滑らかにつながるためのブリッジになっているのです。

そして、2つ目がBセクション(サビ)の4ヴォイス・コーラスの積み上げの巧みさ。このサビは基本2小節を4回繰り返す形ですが、1回目はハモリなし、2回目で真ん中のハモリ(トップと結構離れている)が入り、3回目でその下とそのパートと所々ユニゾンになるその下が入り、低音部に重厚さを加えるのです。トップの主旋律ハイトーンを下のクローズド気味の重厚な3ヴォイスで支えている形です。3ヴォイス内で4度と5度が所々ぶつかるのもかっこいい。

演奏はみんなスタジオ・プレイヤーなので文句なくうまいし、やはりこういうジャンルのアメリカの層の厚さ、質の高さには目をみはるばかりです。当たり前のように正しいところへ着地するような音作り。深く知れば知るほど示唆に富む多くのヒントが隠されています。

日本でスタジオ・ミュージシャンがイニシアチブをとって作るバンドはなぜか商業的には難しい。その理由は送り手の問題なのか、聴く側の意識なのかよく分かりませんが、ひとつ言えることは、スタジオ・ミュージシャンが面白いと思う世界が、一般には伝わりにくいのかもしれません。この"Africa"にしても、Aセクションの繰り返し、最後の繰り返しのコードの一部だけ微妙に違う部分があり、スタジオ・ミュージシャンの面白がるところは、例えばこういうところです。ただし、こういう部分、クロウトさんは気づいても、なかなか一般には伝わりにくいですよね。そういうところに齟齬があるのかなと考えたりします。


 

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