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 Jun 7,2019

■遥かなる影〜その3

 「遥かなる影」'(They lon to be)Close to you'を巡る話の最後。

前回までで「遥かなる影」は1963年に初登場してから、カペンターズのヴァージョンが出て大ヒットするまで不遇の曲であったということが分かりました。ところで、バカラックは1965年に「遥かなる影」を彷彿させる曲を書いています。それはジャッキー・デシャノン*の'What the world needs now is love'「世界は愛を求めている」。

この曲の出だしの3つの音の運び(ラ・ド・ソ)、「遥かなる影」の印象を決定している頭のメロディと同じです。コードは異なり「世界は〜」はIIIm7なのに対し、「遥かなる〜」はIVadd9で、後者は3つ目の音がナインスになるという仕掛けです。

'What the world needs now is love'の頭(音が出ます)

'Close to you'の頭(音が出ます)


「世界は〜」は頭がサビで、戻るAセクションが実にバカラックらしく、頭はナインスの音の連続と続く転調感。途中、全体が半音上がるのも「遥かなる〜」と共通ですが、意地でもトニック・コードやルート音に行かないというのがバカラックの作風のひとつである気がします。最後に種明かしのようにトニックで解決を見ますが、「遥かなる〜」の場合はそこでも3度や5度でルートには行きません。このような中間色でスモーキーな世界こそが持ち味なのでしょう。ブラス楽器との親和性が高いのもこの2曲の共通項かもしれません。

ところで、バカラックのことを書いていて思い出したのは、子供の頃に聴いて大好きになった由紀さおりさんの「生きがい」(1970年 作曲は渋谷毅さん)。ペダルトーン*といい、サビ頭のコードといい、変拍子(なんとサビの3小節目が5拍子になる!)といい、バカラックを彷彿させる現代でも全く色あせない素晴らしい曲。渋谷さんのような人が日本のポップスのレベルを引き上げたと言っても過言ではないぐらいの超名曲です。

*ジャッキー・デシャノン〜シンガーとしてだけではなくソングライターとしてもヒットがあり、1981年全米No.1ヒット曲キム・カーンズ'Betty Davis Eyes'は彼女の作。

*ペダルトーン〜ベースは動かないで、上のコードが動いていく進行。例えばエルトン・ジョンの'Your Song'のイントロ。

 

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