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 Jan 12,2022

■銀残し

 映画のフィルムの現像法で「銀残し」という手法があるのだそうです。

どのようなものかといえば、フィルムを現像する時に漂白という工程を抜いて、銀色を残し、独特の色味にするのです。これを発明したのは日本の巨匠宮川一夫カメラマンで、市川崑監督の「おとうと」(1960年)で初めて使われました。いかにもカラーというようなけばけばしい発色ではなく、この映画の舞台である大正時代の質感を出したくて開発された方法だったということです(ちなみに「おとうと」は岸恵子さん出演作の中でベストだと私は思います)。

その映像を見た感じでは彩度が下がって(極端にいえばカラーと白黒の中間のような色彩になる)、暗い部分は余計に暗くなりコントラストが上がり、独特のソリッドな風合いになります。色の褪せ始めた古い写真のようなという形容もあてはまるかもしれませんが、セピアカラーではありません。

そう言われてみれば銀残しで処理されていた「プライベート・ライアン」(1998年)も、普通とは異なる色彩だったことは鮮明に覚えています。おそらく戦場の殺伐とした感じを表現するのに銀残しの色彩がぴったりだったのでしょう。海外ではスキップ・ブリーチとかブリーチ・バイパスと呼ばれる日本発祥のこの手法は近年のハリウッド映画でもしばしば用いられ、フィルムからデジタルへとメディアが移行しても、プラグイン・エフェクトという形で引き継がれているということです。

(写真は上がノーマルで、下が銀残しの処理をしたもの)


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