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 Aug 10,2023

■黒澤な夏

 黒澤明監督作品を続けて3本観ました。

まずは「用心棒」(1961年)。
今回観たのは4K版。室内のシーンなどはコントラストが異様に強くなり、ライティングがスタジオ丸出しに見えてしまうことや、顔のメイクがさらに過剰に見えてしまうのは少々残念な点。また、セリフが聞き取りにくい場面があるのは黒澤作品の伝統(笑)。
以前、観たのはずいぶん前なので、あれ、こんな人出てたんだという俳優さんもちらほらと。他の映画では重要な役に抜擢される人が、ほとんどセリフなしの役で出ているという贅沢な起用。その中でも、やはり山田五十鈴さんと藤原鎌足さんの存在感が際立っています。山田さんなんて「ばくち打ちにきれいもきたないもあるもんかい!」などというセリフが自然すぎて思わず笑いました。山田さんは癖のある役をやると、笑っちゃうほどうまいです。
おそらく、三船敏郎さんの数多い出演作の中で一番三船さんがかっこいいのは本作品ではないかと。海外でMifuneと紹介される時も本作品からの画像が多いような気がします。

続いて「隠し砦の三悪人」(1958年)。
これ、実は千秋実と藤原鎌足が主役なんですよね。一番、黒澤らしいと思ったのは、一行が町について、そこで没落した秋月家の女を姫が助け、その女が直後から最後まで姫を守ろうとするシーン。ここはジンときます。詳細はこれから観る人のために書きませんが、三船の手放しでの騎乗や、火の祭り(黒澤映画はよく火が出てくる)も素晴らしいけれど、私が好きなのは、この助けられた女のパートです。
それから、冒頭で加藤武演ずる落武者が騎馬に追われて失命するというシーンがありますが、落武者が倒れて騎馬が帰る時に馬の足が落武者の頭に当たってるんですよ。おそらくマルチカメラで、その後もカットせずにカメラを回していると思われますが、死んでるはずの落武者が相当荒い呼吸をしているのが丸わかりです。ちなみにけがはしてなかったそう。

そして「赤ひげ」(1965年)。
黒澤-三船のコンビとしては最後の作品。3時間越えという長尺で、途中に休憩と出て、音楽だけが流れるパートが数分あります(確か「七人の侍」にもあったかと)。
3つのエピソードから成っており、特に最後のエピソードが心を打ちます。キャスティングは日本の映画スター総出演というぐらい豪華で、笠智衆と田中絹代が加山雄三の両親、狂女は香川京子(当時、妊娠中だったとトークショーで仰ってました)。加山の昔の許嫁のほとんど横顔しか見えない女性は当時、東宝が押していた藤山陽子。また、杉村春子は例によって、癖のある遊郭の遣手婆という役。さらに次作「どですかでん」(1970年)で主役を演じた頭師佳孝がすでに子役としての天才ぶりを披露しています。
エピソードの一つ目は「どですかでん」に出てくる話と似ており、これはどちらも原作が山本周五郎だからでしょうか。この一つ目のエピソードだけが根岸明美の語りだけで進むのですが、本当はこの部分の映像も撮られていたのかもしれません。

いや、やはり黒澤作品は観出すと止まりません。


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