■アーティストと職業作家
ミュージシャンのことをアーティストと呼ぶのは、自戒の意味も含め、なんとなく躊躇してしまいますが、アーティストと職業作家の違いとは一体なんでしょう。
私が思うに、アーティストというのはオーダーがあろうがなかろうが、生活するのと同じく日々、作品を作っている人たちのことで、職業作家はオーダーがなければ、作品を作らない人ではないでしょうか。
作風が劇的に変わるのもアーティストの特徴で、職業作家の作はヴァリエーションはあるものの決して発注者の期待を裏切ることなく、ある水準のものを作り上げ、形にします。
もちろん、人にはアーティストの部分と職業作家の部分のどちらもあり、意識してそれを使い分けている人などもいます。例えば、三島由紀夫は週刊誌用の軽い文章と、自分の全精神を賭したような作品とを明らかに描き分けていました。
黒澤明監督作品の映画音楽に関わった作曲家たちも黒澤監督からこういう曲が欲しいとクラシック曲を提示され、提出しても何度もダメ出しをされたといいますから、やはり、映画というプラットフォームありきの仕事で、はたから見れば相当職業的な作業に見えます。ただし、作曲家の顰蹙を買ったそのような方法でも、出来上がってみれば驚くほどどれも素晴らしい音楽に仕上がっています。
絵画の世界に目を向けると、戦争画とは戦意高揚というテーマの不自由さから職業仕事だと思うのですが、ゆえに多くの作品を見ると、なにか作家が触れてはいけないところを避け、このあたりでいいだろうと筆を置く息苦しい感じがするのです。その中で藤田嗣治は、おそらく、これは自分の作風を変えるチャンスだと、楽しんで描いたような気がします。藤田の戦争画が油絵を初めて見るような人たちの心をも揺さぶり、なにものかである印象を与えるのは、数多い戦争画家の中で藤田のみが数多い縛りをすり抜け、自由に描いていたからではないかと。
さらに岡本太郎は美術界で好かれないことを前提にやってきて、食っていけなくてもいい、死んでやろうというぐらいの覚悟でやっていたと記しています。
結局、アーティストと職業作家を隔てる基準のひとつは、世の中におもねることなく、自分の作りたいものを作れるかどうか、つまり、自由か、そうでないかだと思うのです。
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