■トラウマ文学館
例えば、世界のマニアックなアパレルブランドなどを知り尽くして、頭からつま先まで寸分の隙もなく、着道楽を極めた人が一周回って、どこにでもある商店街の「ファッション○○」や「おしゃれの店××」なんていう店の商品に激しく惹かれて忘れられなくなった感じとでもいいましょうか。
この「トラウマ文学館」の著者の頭木弘樹という人は、カフカなどの翻訳をやっている人とのこと。ちなみにカフカに「絶望名人」という呼び名を与えたのはこの人だと思いますが、カフカなんか掘り下げたら一周回っちゃうかもなぁと思いつつ、この本は思わず笑ってしまいました。
この本の「子どもの頃のトラウマ」の章の冒頭の一文。
子どもの頃は、小さなミスをよくしますし、それを隠すためのウソもついてしまいます。でも、たいていは、たいしたことにはなりません。大人たちがなんとかしてくれます。神さまとか、天の助けとかも信じています。まだ世界の中心が自分だから、自分だけはなんとか大丈夫な気がしたり。でも、”現実”は子供にも容赦しません!
で、ここからこの著者の頭木氏が子供の頃から現在に至るまで読んで、大きなトラウマになったような作品が並ぶのです。その作品が単純に怖いおばけとか妖怪とかそういう系統ではなくて、非常に現実味があり、少しずつ真綿で首を絞めるように不安感が広がっていくような展開の作品や、ひとつの小さなミスが次第に大きくなっていき取り返しがつかなるような物語、あるいは世の中の美しく優しいはずの世界を一撃で粉砕するような作品なのです。これはいやです(笑)。
私が印象に残った作はフラナリー・オコナーの「田舎の善人」。これは怖いけれど、自分も心の中に確かに自覚のある悪意や醜悪なものに否応なしに気付かされる作で、この作家の他の作品を読みたくなりました。
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