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 Nov 28,2023

■紅雀の人

 吉屋信子は戦前から活躍した作家。主に少女小説の分野で人気を博しました。映画「安宅家の人々」(1952年)の原作は吉屋の小説。この映画、数年前に観ましたが、私の映画感想メモになかなかの良作と書き残してありました。ちなみにユーミンの「紅雀」というアルバムタイトルは吉屋の同名の少女小説からだそうです。

先日、古書店で見つけてなにげなく買っておいた吉屋の「自伝的女流文壇史」。読み始めてみると、岡本かの子や林芙美子など女流作家との交際の中で、作家たちの人間的な素顔が垣間見え、非常に面白いのです。なるほど、この人の感受性や洞察力、さらに純粋さ〜言い換えればある種の天然加減や浮世離れ感〜は人気作家になるべくしてなったという感じがします。浮世離れということでいえば、岡本かの子などはその筆頭、一方、苦労人の林芙美子はそれとは真逆という印象です。

借金を踏み倒されたり、失礼なことを言われたりしても決して怒らず、個々の事情をくみとり、愛情ある気持ちで人を分析するこの著者には慈愛と大物感が漂います。さらに、若くして成功していたこの人は、選抜され、従軍女性文士として有名文士とともに中国へ行ったり、国内では戦況が悪化する中、疎開もしているのですが、なにかあまり深刻なものは感じず、さらりと切り抜けていく印象です。

一方、著者の周りの女性文士も非常にアグレッシブです。奔放な色恋沙汰、出版事業、海外渡航など現代の女性と比較しても遜色ありません。現代なら芸能人が週刊誌ネタを提供しますが、当時は女性文士がスキャンダルの格好の標的とされていた様子。ただし、若いころの華々しさに比べ、晩年は精彩を欠き、淋しく没してゆくという人も少なくありません。

それにしても、男女問わず、現在は忘れ去られてしまった作家のなんと多いこと。この本は10人の女性文士が中心に取り上げられていますが、その中の8人は初めて見る名前でした。もしかすると、この本はそのような忘れられていく作家たちを愛情ある目で書き記しておくために書かれたのかもしれません。


 

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