■TEXT

 Jun 12,2025

■オランダでのビートルズ

 ビートルズがツアーをしていた時代にはまだセキュリティなどが非常にゆるく、ステージに観客が上がってきてしまうケースもたびたびありました。

1964年、リンゴが病気のためにジミー・ニコルがドラムで代役を務めたオランダ・ツアーのテレビ出演では印象的な場面があります。番組の前半ではスタジオに入れたファンからの質問に答え、後半で演奏が始まります。演奏はレコード音源を流し、演奏しているふりをするマイムですが、ヴォーカル・マイクは生きているので、実際に歌っている声も収録されています。

4曲目の'Roll Over Beethoven'で興奮した観客がフロアに降りてきて、後ろの方で踊り始めます(これは番組上の演出だったのかもしれません)。このあたりからメンバーがそわそわしてきて、ポールにちょっかいを出す観客もいます。5曲目の'Long Tall Sally'からメンバーの表情が固くなってきますが、これは集団になったファンの興奮が爆発するのを恐れていたのだと思われます。曲が終わってから観客の投げたなにかがジョンに当たっています。そして、最後の曲'Can't Buy Me Love'で観客がなだれ込み、テレビの関係者は収拾しようとしていますが、もう止められません。

観客にもみくちゃにされながらもポールは最後まで歌おうとし、ジョンとジョージはなにか話し合ってジョンが大笑いしています。ロード・マネージャーのマル・エヴァンスが後ろからポールに促し、もうひとりのマネージャー、ニール・アスピノールもジョンとジョージを退避させます。残ったのは台の上でドラムを叩くジミー・ニコルとメンバーがいなくなったのに流れ続ける曲だけでした。

なにが怖いかと言えば、途中から観客を制御しようとして後ろからにこやかに入ってくるマル・エヴァンスの表情がある時点で急に深刻になるところです。おそらくエヴァンスはビートルズのステージを一番身近で見ていて大衆が暴徒に変わる瞬間を知っているのだと思います。このような場面を見ると、ビートルズがツアーに対して気持ちが冷めていった理由がよく理解できるのでした。


 
 kishi masayuki on the web


<<   TEXT MENU   >>

HOME