■TEXT

 Jul 7,2025

■東京の戦争

 吉村昭の「東京の戦争」(2001年)は著者が十代の時、実際に東京で体験した戦中、戦後の様子を記したもの。

歴史書などで読む戦中戦後の様子とは異なり、市井の人としてその場にいた記憶はかなりリアリティがあります。例えば、東京が初の空襲を受けた1942年4月、著者は超低空で侵入してくるB-25を物干し台から目撃し、機体の星のマークや、風防の中にオレンジ色のスカーフを巻いた飛行士がはっきり見えたとあります。戦況はまだ日本の連戦連勝だったので、捕獲した爆撃機をデモンストレーションで飛ばしていると思ったそうです。

また、戦中は比較的保たれていた社会秩序は戦後になると乱れ、電車の中のつり革がひとつ残らず切り落とされ、シートの生地も切り取られているのを不思議に思っていたところ、それらは闇市で売られていたとのこと。つり革の輪はバッグの持ち手となり、シート生地は靴磨きの布に適していて、戦後、街にあふれた靴磨きの人々の使っていた布がこの見慣れた電車のシートの生地だったというケースも多かったとのことです。

さらに焼野原になった東京では電信柱も焼け、炭化した頭部がわずかに地面から出ている状態で、そこを掘り起こしている人がいました。それは地中に残っている焼けていない部分の木を掘り起こし、薪として売るためで、著者は呆気にとられたと同時に、この男の目の付けどころに感心したと記してあります。


 
 kishi masayuki on the web


<<   TEXT MENU   >>

HOME