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Aug 15, 2007 

■スティーリー・ダン的アレンジ考

 
1980年代初頭、編曲の井上鑑さんはスティーリー・ダン的アプローチを日本のポップスに応用しようと試みて
いたように見受けました。ところが、非常に複雑なコードを用いるその手法は玄人受けはするものの、一般のリ
スナーに受け入れられる土壌はまだ形成されていなかったと思われます。

で、「ルビーの指輪」の登場なのですが、この曲はご存知の通り、編曲家としての井上鑑さんの名を世に知らし
めた作品。メロディはいわゆる歌謡曲そのもので、ハネないリズムにして、アコギ一本でやったら「神田川」も
真っ青のフォークになります。このような色の濃いメロがスティーリー・ダン系の浮遊感のあるコード、アレンジ
によって化学反応を起こし、それまでのアレンジのロジックとは違う、実に印象的な仕上がりになったのですな。
想像するに、これは井上鑑さんの一存でかなり自由に、あるいは実験的に行われた手法であったのでしょう。そ
して、メロがもうすこしジャージーだったり、洋楽チックだったりしたらただのスティーリー・ダンもどきになってしま
って、大衆の支持は得られなかったに違いありません。

このように、スティーリー・ダン的なアレンジというのは実に曲のマッチングが重要だと思うのですよ。また、ス
ティーリー・ダンのようにしたければ、テクニックでいくらでもそうなりますが、最終的にそれが作品として良いも
のになるかどうかも別の話。あー、これはスティーリー・ダンをやりたかったのだねという失敗例を何度か耳にす
るたびに、大局を冷静な耳で聞き分け、テンションの高くなった現場でストップをかけられる勇気が必要です。こ
のあたりは1980年代も今もあまり変わっていないのかもしれません。そう、ここで大衆側の耳を持つプロデュー
サーと、難解でテクニカルな方向に走りたがるアレンジャーとの壮絶なバトル(笑)となるわけですね。

一流スタジオミュージシャンも手こずる複雑なコードの連続です。

岸正之ホームページ kishi masayuki on the web


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