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Oct 4, 2011 

■黛敏郎とClavioline

 
Clavioline(クラヴィオリン)というのは、1947年にフランスで発明された古典的な電子鍵盤楽器。現在のシン
セサイザーのルーツという言い方をする人もいます。そして、アメリカ、イギリス、ドイツなどでライセンス生産され
たので、様々なブランドや名前が付けられたClaviolineが存在します。

この楽器を一躍メージャーにしたのは、デル・シャノンの「悲しき街角」(Runaway,1961)の間奏でした。さらに、翌年にヒットしたトルネードスのインスト曲「テルスター」(Telstar,1962)では、全面にこの楽器がフューチャーされ
ていました。今、聞くとシンセのようにも聞こえるその音は不思議で、近未来的なものでした。

日本でもこの楽器にいち早く目をつけて、この2曲よりも早く自らの曲で使用したのが、作曲家の黛敏郎さんで
した。黛さんは1956年の映画音楽で、すでにこの楽器を使用しています。その映画というのが溝口健二監督の
「赤線地帯」という映画。日本で初めて個人でClaviolineを買ったのも黛さんだったという話です。

オープニングとエンディングに出てくる音楽を聞くと、確かにClaviolineらしい音色を聞くことができます。多くの人
は効果音のようなポルタメントのかかった音をそれだと思っているようですが、あの音はおそらくスチールギター
とミュージカル・ソーで、少々不安な感じを醸し出しているメロディーを奏でているのがClaviolineでしょう。いかに
もというような派手な使用法ではなく、隠し味的なところを狙っているのだと思います。

その後、Claviolineは日本では歌謡曲や演歌のオケなどで使うのが流行った時期があり、「有楽町で逢いましょ
う」(フランク永井、1958)などでも使用されているらしいです。また、「緋牡丹博徒」(藤純子、1968)のイントロ
頭もそうらしいのですが、この音なら、任侠ものとか演歌とかでよく聞いたような気がします。日本ではどうもア
コーディオンの後継として使われていた様子(イントロのワンパートとしてや、歌メロをなぞるようにメロの弾くな
ど)で、その後に電子オルガン、さらにシンセに繋がっていったのだと思います。

Claviolineはサブキーボードとして、ピアノの鍵盤部分の下にはめ
込んでの演奏を前提に作られているので、とてもコンパクトでした。


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